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2017-11-21 00:00
岸田が「ポスト安倍」意識の代表質問
杉浦 正章
政治評論家
衆院代表質問の場でもあらばこそ、自民党政調会長岸田文雄が、「ポスト安倍」といういわば“私闘”に属する問題を取り上げた。いささかあきれたが、野党の“ふんどし担ぎ”のちまちました質問より面白かった。政権奪取に向けての政治信条も「正姿勢」と打ち出し、所属する派閥宏池会の元祖池田勇人の「低姿勢」から脱皮した。もっとも、一方では安倍政治を賃金や雇用において「大きな成果」と褒めるなど、なお“禅定路線”捨てがたしの心境もちらつかせた。演説終了から席に着くまで25秒間万雷の拍手が鳴り止まなかったが、これを誤判断して突撃する時期ではあるまい。ポスト安倍のライバル石破茂には大きな差を付けた感じだが、来年9月の総裁選挙に出馬するには、首相安倍晋三が相当弱体化しなければ無理とみる。岸田はまず「総理はアベノミクスをはじめとする政策の先にどんな姿を見ているのかお示し願いたい」と安倍に政治信条の明示を求めた。安倍はこれには全く答えず、あえて無視して答弁書の読み上げに終始した。ついで岸田は「池田首相が自らの政治姿勢として寛容と忍耐をスローガンとして提唱したことが低姿勢と受け取られた」として「責任ある政治の姿として疑問が指摘された」と述べた。しかし「低姿勢」は「受け取られた」のではなく、ブレーンの大平正芳や宮沢喜一が勧めて池田自らが言及したこともある事実であり、事実誤認がある。岸信介の安保条約改定で見せたタカ派姿勢のアンチテーゼとして、池田は低姿勢を自ら打ち出したのだ。
しかし、その間違った論拠に立って岸田は池田が師として仰いだ陽明学者安岡正篤が「低姿勢、高姿勢のいずれも間違いである。自分の政治信条をはっきり持っていれば自ずから正姿勢になる」と助言したことを指摘。「相手の顔色を見て右顧左眄(うこさべん)するようでは国民への責任を果たせない。同時に野党や国民に上から目線で臨むようでは国民の支持を失い、真っ当な政治を行えない」と信条を述べた。この「上から目線」発言は安倍への苦言とも受け取れるが、岸田は重要ポイントを見逃している。それは今回の総選挙の大勝が、北朝鮮に毅然として対処する安倍自民党の路線を有権者が圧倒的に支持したからにほかならない点だ。北への対処方法は一見タカ派に見えるが、世界標準から見ればハト派に属するくらいのレベルである。そして岸田は「選挙において多くの議席をいただいたからこそ、正姿勢の3文字を胸に公約実現のために日々前進してまいりたい」と結んだのだ。今後、岸田の政治信条は「正姿勢」と固まったが、自ら正しいと信ずる姿勢が往々にして唯我独尊につながることは政治の常であり、このキャッチコピーには危うい側面もある。
さらに加えて岸田は安倍の神経逆なで発言をした。森友・加計学園問題に言及したのだ。「国民に疑問の声がある以上丁寧な説明が必要」と迫った。これに対して安倍は「私自身は閉会中審査に出席するなど国会で丁寧な説明を積み重ねてきた。衆院選における各種討論会でも質問が多くありその都度丁寧に説明した」と突っぱねた。岸田は総選挙のテーマの一つがモリカケにあったことを無視している。安倍のモリカケへの関与の虚偽性を有権者は看破して、大勝につながったことを岸田はどう考えるのだろうか。野党の目線で政調会長たるものが追及する問題ではない。また改憲問題で岸田は「憲法論議は改正のための改正であってはならない。丁寧な議論が必要」と首相をけん制したが、安倍は「国民的な理解が深まるのが重要」と深入りを避けた。
自民党内ではタカ・ハト論争が絶えてなかったが、これは小選挙区制への移行で中選挙区制のような党内対立が必要でなくなったことが大きな理由だ。岸田の宏池会はハト派で、タカ派とされて安倍も会長を勤めた福田系派閥清和会と対峙してきたが、あえて岸田がぶり返した背景には総裁選への思惑があることは間違いない。このまま安倍を来年3選させて、今から合計で4年間の政権に協力し続けるべきか、それとも来年岸田自らが出馬して勝負に出るかの思惑が錯綜しているのが代表質問に現れたのだろう。派閥を率いるにも“やる気”を前面に出す必要があった。野党は立憲民主党代表の枝野幸男と希望の党代表の玉木雄一郎の立ち位置の違いが鮮明となった。枝野は先祖返りして左傾化を鮮明にさせた。しかし論理矛盾を露呈させた。日米安保条約を恥ずかしげもなく「不可欠」としながらも、集団的自衛権の限定行使を可能とした安保関連法の廃止を要求したのだ。北朝鮮の存在が安保関連法なくしていまや国の安全保障は成り立たないという事態に至らしめているイロハノイを理解していない。逆に玉木は外交安保で現実路線だ。政権への補完勢力の色彩を強めたが、希望の党内部が持つかどうかだ。
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