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2017-11-24 00:00
指導国家の戦略欠くトランプ外交
鍋嶋 敬三
評論家
ドナルド・トランプ米大統領が「歴史的」と自賛するアジア歴訪で示した「未来への美しいビジョン」を11月15日の演説で誇示した。歴訪には三つの「中核となる目標」があったと言う。それは(1)北朝鮮の核の脅威に対する世界の団結、(2)インド太平洋での米国の同盟と経済連携の強化、(3)公正で互恵的な貿易ーである。北朝鮮に対してトランプ氏は20日、9年ぶりにテロ支援国家に再指定した。追加制裁によって「最大限の圧力」をさらに強める。これは北だけでなく後ろ盾の中国に対しても圧力強化を促すメッセージである。しかし、北の核・ミサイル脅威への対処では米中間の溝は埋まらない。これは朝鮮半島問題が米中間のアジア覇権争いの大きな焦点になっているからである。
「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、元来が安倍晋三首相の提唱にかかるもので、トランプ氏はちゃっかりこれに乗った。日本をはじめ米国、豪州、インドという自由、民主主義の価値観を共有する4カ国のパートナーシップが安全保障と経済の連携を深めるという発想である。しかし、トランプ氏にとってはいまだにスローガンの域にとどまっているようだ。この戦略が目指すところは中国の存在である。ここで最も重要なのは、インド洋と太平洋の間にある南シナ海であり、地域諸国との領有権紛争を抱える中国による人工島の建設、軍事拠点化の問題である。中東とアジアを結ぶ海上交通路(シーレーン)の中心に位置する南シナ海は米国や欧州にとっても経済的そして軍事的な生命線でもある。しかし、ベトナムでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)での演説でトランプ氏は国際貿易システムの「不公正」批判に終始した。フィリピンでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の議長声明では南シナ海問題で中国に配慮し「懸念」の文言が消えた。
第3の目標の「公正で互恵的な貿易」は米国との2国間自由貿易協定(FTA)の主張につながる。環太平洋連携協定(TPP)からの米国の離脱でアジア最大の被害国は米市場を失うベトナムとマレーシアである。米国抜きのTPP11に強く抵抗してきたのも他ならぬこの2国でフィリピンとともに南シナ海で中国と紛争中だ。ここは米国が強く彼らの後押しをすべき場面だった。トランプ政権の「反国際主義」は米国の外交力をそぎ落としているのだ。「一帯一路」の壮大な戦略を掲げてユーラシア大陸とインド太平洋地域に経済的、軍事的な橋頭堡を築くため着々と手を打ってきた中国の影響力拡大を米国自身が助けていることにトランプ氏は気が付かないのか。否、歴代米政権のように対中融和路線を変える必要がないと考えているのではないか。トランプ大統領が習近平国家主席との首脳会談で中国の人権問題を取り上げなかったことに中国の人権派は落胆を隠していない。
トランプ政権のTPPや気候変動対策のCOP23からの離脱は中国の外交的立場を利するばかりだ。いわば借り着のインド太平洋戦略も、米国の立場からする総合的な戦略に基づいた具体的な計画も工程表も示されていない。多国間協調主義に背を向けた外交姿勢は米国の国際的な影響力を弱め、核を含めた同盟国に対する拡大抑止の信頼性低下につながる。中国はこれも見透かしているようである。トランプ歴訪の直前に中国は米韓間にくさびを打ち込み、韓国との間で米韓同盟関係に重大な影響を及ぼす合意文書をまとめた。高高度地域防衛(THAAD)ミサイルシステムの追加配備、米国のミサイル網参加、米韓日の軍事同盟化のいずれも否定する「三不(ノー)政策」で韓国外相が国会で認めた。これは米国主導のアジア軍事戦略の足かせになる。中国によろめく韓国の文在寅政権をしっかり同盟戦略につなぎ止める引力がトランプ政権には欠けている。米国の利己的な経済利益追求の陰で、自由、民主主義や法の支配などの価値観を尊重する世界の指導国家としての地位が掘り崩されつつあることを自覚してもらわなければならない。
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