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2017-12-11 00:00
「自由貿易の旗手」日本の存在感強まる
鍋嶋 敬三
評論家
日本と欧州連合(EU)間の経済連携協定(EPA)交渉が12月8日妥結した。2019年春までの発効を目指す。安倍晋三首相とユンケルEU委員長は共同声明で交渉妥結が「多大な経済的価値を超えた戦略的重要性」を有するものであり、「自由貿易を力強く前進させていく揺るぎない政治的意思を全世界に示す」という意義を強調した。一方、日本やベトナムなど環太平洋連携協定(TPP)の米国を除く11カ国は11月11日に新協定の大筋合意を正式に発表した。これも2019年の発効を目標に各国での手続きを進める。自由貿易の国際的なルール作りで日本が主導権を発揮し、太平洋と大西洋をつなぐ国際経済秩序の構築で日本の存在感が強まった。
新しいTPP11は相手国に対する関税撤廃率が95~100%に達する。米国がTPPに復帰した場合に解除する凍結項目は知的財産分野を中心に20に抑えた。参加11カ国の国内総生産(GDP)は世界の14%を占める。「米国第一主義」のトランプ米政権が二国間の自由貿易協定(FTA)を目指し保護貿易主義の傾向が強まる中で、高水準の貿易・投資ルールが成長著しいアジア太平洋地域に創出される意味は大きい。TPPも日EU・EPAも安倍政権にとってはアベノミクスの成長戦略の重要な柱になる。日EU・EPAについて安倍首相は記者会見で「自由で公正なルールに基づく経済圏を作り上げていく」「21世紀の国際社会の経済秩序のモデルとなる」と述べた。
日本にとっては、輸出品にかかるEU側の高関税(自動車10%、電子機器14%)など工業製品については100%撤廃され、EU側の撤廃率は99%に達する。日本市場にアクセスするEUの化学工業品は即時撤廃し、日本側の撤廃率は94%とするなど、水準の高い市場アクセスを保証するものとなった。日本とEUは世界のGDPの28.4%、貿易額(輸出+輸入)の36.8%を占める巨大経済圏である。日本と欧州は地理的に遠く、ややもすれば関心が薄れがちだが、民主主義、法の支配、人権など基本的価値観を共有する。日EUの戦略的パートナーシップ協定(SPA)とともにEPAは政治的にも重要な基盤となり戦略的関係が強化される。
世界の自由貿易体制はトランプ政権の保護主義政策によってほころびを見せている。他方、中国が主導権を握ろうとしている東アジア地域包括的経済連携協定(RCEP)は各国の利害が対立して2017年内の合意が見送られた。EU自体も英国の離脱で体制が揺らぐ中でEPA妥結は自由貿易の推進力となって世界経済の活性化に資するところ大である。12月10日からの世界貿易機関(WTO)閣僚会議の直前に妥結できたことは多国間貿易協定の意義と日本のリーダーシップを明確に世界に示すことになった。
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