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2018-01-04 00:00
(連載1)民主主義政治体制の危機へどう対処するか
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
平成26年のとある新春放談の機会に、「理念として民主主義と議会制民主主義体制:ギャップを如何に埋めるか?」という課題を提起した。その後、成蹊大学で勉学した小生のゼミ生からの依頼で、この放談を彼らが毎年発刊している「ゆめ吉クラブ」へ掲載したら、彼らとその多くの友人たちから、諸々のコメントを頂いた。海外では、米国でトランプ大統領政権が誕生し、「アメリカファースト」のスローガンの下で、それまでの民主、共和両党政権が掲げてきた国内外に開かれた政治経済社会政策に逆行する大統領宣言がTPP協定やパリ協定からの離脱、移民・難民受け入れ政策の制限・転換を含めて次々に打ち出されて、米国型民主主義を信奉してきた多くの国内外の人々にとって、Quo Vadis USA (米国は何処へ行くのか) と疑念・懸念を抱かせた。同様に、一昨年から昨年にかけて多くのEU諸国では国会、地方選挙が実施されて、EUが従来掲げてきた政治理念である国内外に開かれた政治経済社会体制への統合過程を危ぶむような政党が一部急進的な国民の支持を得て台頭してきた。さらに、排他的な難民政策をとるハンガリーや民主主義体制の根幹をなす三権分立原則を否定する強権的な国内政策をとるポーランドに見るような加盟国もでてきた。これら先進諸億における一連の政治的反応は、一般市民、特にグローバル競争の下で置き去りにされてきた国民大衆の既成政党、既得権集団への抵抗・反対運動の表れであり、2015年秋の国連総会が採択した「持続可能な開発目標=SDGs」が目指す、Leaving no one behindこそ、今やすべての国のすべての国民各層が追求すべき原理原則であろう。
目をその他の地域へ向ければ、1989年のベルリンの壁の崩壊に端を発した米ソの冷戦体制の終結以来かってオレンジ革命とかアラブの春の到来ということで、世界の多くの人々に「平和の配当」への大きな期待を抱かせたが、これら多くの国々で、一党独裁・専制政治体制への逆戻り現象が見られている。さらに、シリヤに見るように政府・非政府組織を含めた海外勢力の介入による武力衝突が激化して、数百万人に上る国内外難民が発生している地域もある。ソ連邦崩壊後に独立した多くの中央アジア諸国や隣国中国、ロシヤでも、かって西側諸国が期待した国民大衆参加型民主主義体制の樹立は、現時点では儚い夢となっている。国内に目を向けると、2012年に発足した第2次安倍政権は今年で6年目を迎え、その間に実施された衆参両議院選挙では自民公明両党が圧勝し、従前のような毎年総理大臣が変わるという異常な政党政治体制が影を薄めて、漸く民意に基づく政治的安定を維持してきた。しかし、三年前の夏には国会で絶対多数を占めている自民・公明両党は、野党の論議延長要請にもかかわらず、安保法制の国会採決を多数決で強行し、昨年もまた、犯罪を従来の我が国刑法とは異なって、計画段階から処罰対象とする「改正組織的犯罪処罰法」(共謀罪)が、参院法務委員会での僅か17時間50分という短時間で審議を打ち切るという再度の強行採決が行われて、自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数で参議院本会議で可決された。自民公明両党は、国会における多数決によって採択された法律は、合法であり、民意を代表するものととらえているが、立憲民主党、民進党、共産党など野党は、民意を無視したものとして、抗議を続けている。確かに普通選挙で選ばれた国会、地方議会では多数決による政策決定は合法であるが、こうした政権与党が、野党との根気強い協議ではなく、数で押し切るという暴挙は、少数野党も民意より選出された国会議員であるが故に、政権与党は野党の主張にも謙虚に耳を傾けるという民主主義政治体制の根幹である多様性を尊重する民主的な国会運営を願う国民各層の期待に反する行為であり、一昨年の都知事選挙、昨年の都議会選挙に見るように、国政政権与党に対する不信・怒りをかきたてる結果を招いたのは当然であろう。現在、自民党内では改憲原案が粛々と準備されて、連立政権与党の公明党との協議を経て、本年1月12日に始まる通常国会では、調整済みの改憲案が衆参両議院の憲法審査会へ提出されて、審査会での慎重な審査が予定されていると聞いている。我が国民が総意を以て守ってきた平和憲法であるが故に、たとへ国内外を巡る情勢変化があってとしても、万が一にも審査会での十分な協議なしに再度強行採決するという暴挙は絶対に許されない。さもなくば、自民党内での異論は勿論、連立内閣を構成する公明党の反発をも招き、本年の参議院選挙は勿論のこと、国民大衆が過去6年間選挙を通じて表明してきた自公政権与党への信頼・期待の崩壊は免れないであろう。我が国は戦後の「平和憲法」の下で立憲君主制を導入し、議院内閣制に基づく議会制民主主義制度を採用してきたが、公正、平等、自由、参加を理念とした民主主義に立脚した、総ての民意を代表する合理的で、機能する新しい議会制度、政治体制はできないだろうか。
理念としての民主主義はすべての先進諸国や多くの途上国の指導者や国民大衆にも受け入れられている政治思想であり、その思想に基づく政治制度の構築・普及には、一部の共産党独裁を統治原理とする国を除いて世界的に特に異論はないといってよいであろう。主権在民を基幹とする民主主義は、総ての住民、国民が、年齢、性別、人種、国籍、信条、宗教の如何に拘わらず、その経済的、政治的、社会的、環境的、文化的権利が憲法で公正かつ平等に保障される。そこでは、個々人の自由と多様性が最重要視され、如何る国家・政治権力もこれを侵害することはできない。主権在民下の憲法は、かかる国家・政治権力から国民の権利を護り、国民主権の貫徹を保障する基本法である。かって我が国の「大正デモクラシー時代」に風靡した「民本主義」と軌を一にしている。民主主義的政治制度とは、理念としての民主主義を推進する仕組みを有する政治的制度であり、そこでは、総ての住民、国民が物質的・精神的な豊かさ追求する権利を行使でき、社会全体の公益福祉に貢献する政策の形成・実施・監視・評価過程へ参加する権利を有する政治制度である。このような民主主義的政治制度は、すべての人々が信仰の自由、言論の自由、集会の自由を保持し、自由かつ秘密裡に行使できる普通選挙制度と立法行政司法の三権分立制度が憲法によって保障されている政治制度である。
民主主義的政治制度は、その主権者たる住民、国民の間に、民主主義の理念を共有し、死守しようという強い意志がない限り、国内外の独裁者、権力者の台頭により容易に崩壊する政治制度であることは、20世紀の近代社会の歴史から自明である。「我に自由を、さらば死を!」は18世紀から19世紀初頭にかけて米国を風靡したスローガンであり、それがやがて南北戦争における北軍の勝利による「奴隷解放」へ繋がったが、このスローガンが示すように、自由、人権擁護、国民主権は天から与えられるものではなく、国民大衆が国家権力とその背後にある既得権集団から勝ち取るものであることを銘記しなければならない。さらに、民主主義理念・政治制度が自然の一部である人間の社会的通念・制度である限り、その貫徹を可能にする生態的・社会的条件の永続が不可欠である。当該地域住民、国民の生死に影響を与える生態的条件の存在、特に生命に優しい地球環境、自然環境の保全が不可欠である。武力紛争、戦争は自然環境の最大の破壊要因である。自然環境は有限であるが故に、あらゆる国やあらゆる企業集団も一方的に収奪することは許されない。政府間協議に基づき国際協定・条約を制定し、加盟国内はもちろん、国際機関や国際的な市民社会組織ネットワークも厳しく監視し、違反者・国は国際的な制裁の対象となる。さらに社会的条件で最も重要なものは、国民大衆一人一人が、平和を可能にする諸民族、諸国民、諸国間の政治的、社会的、文化的多様性を認め、相互信頼・友好関係を振興する国際条約・協定の制定・履行である。これらの生態的・社会的条件が充足されない地域・国民・国際社会では、民主主義理念・制度の貫徹は不可能である。武力紛争、戦争は民主主義理念・制度の最大の敵である。こうして、地球環境の保全と平和は、民主主義理念・制度の前提条件である。(つづく)
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