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2018-01-05 00:00
(連載2)民主主義政治体制の危機へどう対処するか
廣野 良吉
成蹊大学名誉教授
上記の民主主義的政治制度が法的に整備されれば、その社会には民主主義が貫徹されるかという問いには、大変残念ながら、多くの場合には「ノー」である。たとえ、生態的・社会的条件が充足されていたとしても、憲法下で保障された自由秘密に行使される普通選挙制度の導入ないし実施が不十分である場合が、特に途上国に多い。普通選挙制度には、国政、地方自治体自治において、直接選挙制度と間接選挙制度があり、多くの国では、両制度が共存している。多くの国では、国政において、国民がその代表である首長(大統領)と国会議員を、そして地方自治においても、住民の代表である首長(県知事、市長、町長、村長等)と地方議員を直接選挙によって選出する直接選挙制度が導入されている。他方、国民、住民がそれぞれ国会議員と地方議会議員を直接選ぶが、その議員が首長を選出する間接選挙制度がある。我が国の場合のように、国政においては、国会議員は直接選挙によって選出するが、行政府の長は間接選挙制度を採用し、衆議院議員選挙において最大多数議席を獲得した政党が指名した内閣総理大臣候補が衆議院議員総数の単純過半数で総理大臣に選出・任命され、総理大臣が内閣の閣僚を任命する「議院内閣制」を採用しているが、地方自治体では、首長も地方議会議員も共に直接選挙制度を採用している国々もある。さらに、地方自治体の議会議員は直接選挙制度によるが、地方政府の首長は、国の行政府の長たる総理大臣ないし内務省大臣によって任命される国もある。我が国では国民の最高意思決定機関としての国会があるが、戦後の平和憲法制定当時期待した衆参両議院の機能差別化が、戦後70年の間に完全に消失している。参議院は「国民の良識」を代表し、長期的視野に立って、我が国の政治・経済・社会・環境・文化の発展を希求しつつ、短期的・地域的利害に基づく衆議院の審議を牽制するという本質的機能を最早や放棄しており、衆議院と同様に政党政治の場となっているのが現状である。ある政党が衆参両議院で絶対多数を占めた場合には、衆議院で採決された議案を単に承認する機関となり下っているやにみえる。このような参議院の存在は、民主主義の理念の貫徹には貢献しておらず、無用の長物ないし国民の税金の無駄遣いである。その場合には、多くの国々見るように、一院制(衆議院のみ)にするか、出発点に戻って、衆参両議院のあり方を再検討し、「国民の、国民による、国民のための国会」を再構築しなければならない。
さらに、国政レベルでは、最高裁判所の近年の再三の判決にみるように、従来の両院議員選挙は明らかに違憲状態であり、早急な一票の格差是正が求められている。しかし、三年前国会で審議決定した公職選挙法改正でも、衆参両院において相変わらず一票の格差は2倍を超す大きさである。もちろん、現行憲法で人口が少ない県が人口比だけて衆参両議院議員数を決定した場合に生じる問題も無視できない。そこで、1994年には従来の中選挙区制に代わって小選挙区比例代表並立制が導入されて、その際設置された衆議院議員選挙区画定審議会が、10年ごとの国勢調査に基づいて区割りの改正案を作成し、政府はその勧告に従って公職選挙法の改正案を国会へ提出する義務を負った。しかし、各政党内と政党間の利害対立によって、民意を反映するような一票の格差の抜本的是正は、今日に至るまで相変わらず実施されていない。さらに、衆議院議長の諮問機関として「衆議院選挙制度に関する調査会」が2014年に設置されて、2016年には小選挙区の区割り見直しについて答申され、法改正がなされたが、抜本的改正には程遠いものとなっただけでなく、選挙区が両県にまたがって減少となった中国、四国の諸県では早くも反対運動が展開され、その区割りも再度見直されることになった。
最も深刻な課題は、直接選挙制度が導入されている多くの「民主国家」では、国会議員の選出が小選挙区制の下で実施されているために、議員の最大の関心事は、地元の選挙民の意向の代表として活動することであり、それ故に多くの場合国益よりも地元小選挙区の利益を代表するか、地元の選挙母体となっている特定利益集団の利益を代表することが多い。さらに、国会審議では「党議拘束の縛り」の故に、地元利益集団の特定利益を政党政策に反映させるためには、他選挙区の同種利益集団議員と連携して、共通利益集団(農協、建設業界、医師会等)の議員連盟に加入する。国会議員の大半は政治家を本業としており、自己の生計と一体化されていることも影響し、再選が議員の最大関心事となっており、その結果議会での審議では地元の選挙母体の利益を最優先し、いわゆる信念・原理原則なきポピュリズト政治家(大衆迎合型議員)となる場合が多い。時には八方美人的役割を担い、あらゆる既得権集団の利益を代表することによって、再選を果たす。大変残念ながら、今日の我が国では、主権者教育活動が全国規模でも、地方自治体レベルでも不十分であり、国会、地方議会議員の政治活動が国民一般の利益を代表するように常時牽制するオンブズマン組織は、単なる市民活動組織として弱体であり、法的強制力をもって議員活動の実態を調査・検証する常設の「市民によるガバナンス推進委員会・制度」は存在しない。僅かに存在するのが先に述べた「公職選挙法」に基づく議員活動規制や地方議会の条例に基づく「情報公開制度」による規制のみである。衆参両議院に設置されている行政監視委員会は専ら行政府活動監視役を担っているだけであり、当初期待されたこの機能さえ適切に発揮できずにいるのが現状である。政策評価法に基づいて2002年設置された各省庁、独立行政法人や自発的に設置された地方自治体の内外評価委員会も、当該行政活動の評価にとどまっている。国会でも、地方議会でも、議員は国民全体の利益を代表する国民のための公民であり、その議員活動を常時監視・検証する自主的委員会の国会内、地方議会内設置や既存の議員懲罰委員会の機能の拡大が困難であれば、議会外で法的調査・監視権限をもった常設の「市民によるガバナンス推進委員会・制度」の設置は、不可欠である。
さらに、近年の国政、地方選挙の実態をみると、選挙権を行使するのは有権者の半数以下であり、多くの市議会では30-40%台、町議会・村議会議員選挙ではなんと無投票当選が50%をこえる。この場合、議会での多数決による法制化、条例化は、本当に民意を代表しているといえるだろうか。さらに、地方自治体では、首長も選挙によって選出されるが、首長選挙でも投票率が50%を下回るのが我が国の通例であり、首長による政策・条例提案が一般化して、議会がそれに対応するという我が国の地方政治環境の中では、地方自治体における政策・条例が地域住民全体の民意を代表するとはいい難い場合も多い。また、地方議員の場合にも政党化が進み、一方で国政における加盟政党の政策への追従が地方議会審議にも見られ、他方では選挙母体の特定利益集団への奉仕傾向がみられる。しかし、選挙民の地方自治への参加意識が強い地方都市では、地方議員が特定利益集団の利害よりも地域住民全体の代表として地域益に重点を置く場合も暫時見られており、今後その傾向が一層強くなることが望ましい。(つづく)
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