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2018-01-11 00:00
「どこへ行く」トランプのアメリカ
鍋嶋 敬三
評論家
ドナルド・トランプ米大統領の共和党政権が発足して1月20日で1年を迎える。ビジネス界出身のトランプ氏はツイッターを駆使して外交から安全保障、経済、内政に至るまで思うままに発信してきた。激しい感情をむき出しにして北朝鮮の金正恩労働党委員長を「小さいロケットマン」と嘲る一方で、自らを「非常に安定した天才」と自賛して世界を煙に巻いた。米国の政治史上でも例を見ないスタイルの特質は第一に大統領の座に押し上げた白人中間層を中心とする政治基盤へのアピール効果を狙ったものだ。第二に対立する相手(国)の感情を逆なでして反発を呼ぶことでトランプ・ペースに巻き込む計算も秘められている。しかし、公式の政府声明によらない気まぐれな発言は大統領自身の性格の不安定さを露呈し、米国への信頼性を大きく損なうマイナスを招いていることは否定出来ない。
トランプ発言の多くは体系的な政策に基づかないものが多い。国際情勢や政策についての無知から来る思い付きや、ごく少数の側近の助言に飛びつくことも希ではない。在イスラエル米大使館のエルサレム移転発言がその典型だ。トランプ氏が職業専門家集団である国務、国防、財務省などの官僚組織を敵視していることも背景にある。重要官庁の主要ポストはいまだに埋まっていない。このため、共和、民主党を問わず長年積み上げてきた多国間の国際合意や同盟関係よりも、2国間の取引を重視する。世界貿易機関(WTO)の軽視や難交渉の末に合意に達した環太平洋連携協定(TPP)、気候変動のパリ協定からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定の再交渉要求などはその典型だ。
このようなトランプ外交がもたらしたのが、米国の信頼性低下による国際秩序の不安定化である。同盟国の高官すらも「ワシントンはいまや世界の不安定の震源地になった」と強い懸念を示したという。超大国としての「重し」がとれれば、地政学的な空白を埋める動きが出てくるのは必然の成り行きである。オバマ前政権時代から中国やロシア、中東ではイランがそのような動きを見せている。ロシアのウクライナ侵攻とクリミアの軍事併合(これは19世紀的な帝国主義的侵略に他ならない)、中国による南シナ海の一方的な領土編入と軍事拠点化や、一帯一路戦略は正にその具体例である。ベトナムやオーストラリアが中国への融和姿勢を見せているのは、このような地政学的な変化を察知しているからだ。第二次大戦後の75年間、米国が超大国として君臨したのは強力な経済力と軍事力だけではなかった。自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値に対抗し得るイデオロギーが世界で影響力を持ち得なかったからである。米ソ冷戦の終結はその例証であった。
それから四半世紀の世界は単純化すれば、自由・民主主義体制をとる米欧日のG7に対して、中国やロシアに象徴される拡張主義的な権威主義体制との対立の構造が表に出てきた。アメリカはどこへ向かおうとしているのか?2018年は大統領選挙から2年後の中間選挙を迎える。現職大統領に対する信任投票でもある。上院は現在でも過半数ぎりぎりの共和党が負ければ、議会運営、政策遂行はますます困難になる。すでに補欠選挙でその兆しは出ている。トランプ氏が政権基盤を固めるために、対外的な摩擦を辞さない「米国第一主義」や「力による平和」路線を続ければ、国際秩序の不安定化に拍車をかける。日米関係でも自動車や鉄鋼など貿易問題での緊張は必至である。トランプ大統領とは数少ない「馬が合う」リーダーである安倍晋三首相の政権下でトランプ大統領を出来るだけ早く日本に招き、北朝鮮問題など国際秩序の安定のためには日本の存在が米国にとって不可欠であることをその目で認識させることが、日米同盟を外交の基軸とする日本にとって2018年の大きな課題である。
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