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2018-01-16 00:00
ウインフリーは米政治救いの女神か
杉浦 正章
政治評論家
典型的な保守派で共和党寄りの立場をとっている米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が社説で「ウィンフリー氏、トランプ氏を追い出す?」「次期大統領選の民主党候補になるとの憶測が急浮上」と書いている位だからフィーバーは相当なものだろう。米大統領としては異常なまでにその醜い発言のボルテージを高めているトランプに米国民が辟易としていることを物語る。ウインフリーといえば米国人が好む立志伝中の人であり、立候補すればトランプを脅かす存在になることは確実。本人はやる気かどうかの明言を避けているが、今年11月の中間選挙を経て、民主党が予想通り上下両院で勝てばウインフリーは出馬し、トランプの任期を4年で終わらせるとの見方が強まっている。「オプラ・ブームも、ハリウッドのような熱しやすい『ドリーム・ファクトリー(夢の工場)』による希望的観測にすぎないのかもしれない。だがその可能性を前に硬派でプロフェッショナルな民主党関係者でさえ胸をときめかせてしまう理由も分かる」とWSJ紙が書く63歳のウインフリーは、典型的な黒人の貧困家庭に生まれた。9歳の頃には親戚に強姦されるなどの性的虐待を受け、14歳で妊娠し、出産している。産まれた子供は1週間後に病院で亡くなっている。19歳でローカルテレビのニュースの仕事に従事してマスコミ界に入り、32歳の1968年にテレビの「オプラ・ウインフリー・ショー」を立ち上げ、この番組は2011年まで続いた。弁舌の鋭さ、知性の高さでマイノリティーだけでなく、白人女性層にも広範に支持されている。ウィンフリーの資産額は現在、28億ドル(約3100億円)に達している。「出馬コール」に火がついたのは7日のゴールデングローブ賞授賞式。黒人女性として初めて生涯功労賞を受賞したオプラ・ウィンフリーが自らの経験に裏打ちされた性的暴力の被害者への連帯を示す力強いスピーチを行い、出席者から何度も熱狂的なスタンディングオベーションを受けた。
出席した俳優や音楽家らからは、レディ・ガガが「オプラが大統領選に出馬すれば支持する」と言明すれば、「ゴッドファーザー」のロバート・デニーロは「世界は裸の王様の馬鹿を見ている」とトランプをこき下ろし、出馬を促した。そのトランプの発言の醜さ、幼稚さは病膏肓とも言える段階に入った。枚挙にいとまがないが最近ではハイチを「便所」と誹謗した例だ。トランプは議員らに「なぜ便所のような国(shithole countries)の出身者を来させたいのか。ノルウェーのような国の人々を受け入れるべきだ」と発言した。これは明らかに人種差別であり、自由と法の下での平等を高らかにうたった合衆国憲法に大統領自ら違反するものである。またWSJ紙によると2016年の米大統領選の1カ月前、トランプの顧問弁護士の1人が、トランプと性的関係を持ったとされる元アダルト映画女優に対し、口止め料として13万ドル(約1440万円)支払う約束をしたという。ロシア疑惑も増す一方だ。こうした発言や行動が繰り返されるたびに、米国民の多くの視線がウインフリーに向けられ始めた。トランプ陣営はオプラが政治の素人である点を指摘しているが、これこそトランプにそのまま返される言葉だろう。WSJ紙は社説で「選挙戦で有権者をどう説得するかが課題だが、ウインフリーが出来ないと断言するのは愚か」と書いている。米大統領には現職政治家や、経営者、企業幹部などが当選するケースが多いが、全くの素人に見える候補も当選している。トルーマンはミズーリ州カンザスシティで洋品店を営んでいた。ジミー・カーターは、農場主だった。レーガンはハリウッドの俳優だった。いずれも優秀な大統領であった。政治面では未知数であっても、政治力は素質があれば育つものだ。
トランプはウインフリーが強敵になり得ると感じてか、早くも「オプラなら私は勝てる。相手がオプラなら面白い。ただし出馬するとは思わない」と牽制球を投げ始めた。臆面もなくトランプは「人生を通じて、私の最も大きな長所は、 安定した精神と、そして、何というか、とても頭が良いということだ」「私は大成功を収めた。実業家からトップのテレビタレントとなり、そして米国の大統領になった。私が思うに、これは頭が良いというよりも、天才と呼ぶに値するだろう。しかも、非常に安定した天才だ!」と述べた。この発言はデニーロの「裸の王様の馬鹿」と言う形容が何とふさわしく見えることだろうか。自分を天才と思い込む病気には「自己愛性パーソナリティ障害」がある。ありのままの自分を認めることができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込むパーソナリティ障害の一類型である。これが実際にトランプに当てはまるかどうかは分からないが、その危険を感じさせる大統領は危険な存在であろう。14日にも懲りずにトランプは「私は大統領として、わが国が再び強く偉大な国になるのを助けようとする人々がわが国に来ることを望む。移民の能力に基づいたシステムを通じてだ。ビザ抽選制度はもういらない!」とツイートしている。もはや確信犯だ。
とにかく何をやるか分からない異常性を秘めていることがトランプの一年で分かった。国務、国防両相やホワイトハウス内の良識の“歯止め”がかかっているうちはよいが、いつ歯止めがかからなくなるか分からない状況に世界は置かれている。公共ラジオNPRの世論調査によると大統領選でトランプとウィンフリーが対決した場合、どちらを支持するか聞いたところ、ウィンフリーが50%で、トランプの39%を上回った。この差は今後トランプの奇想天外発言が繰り返されるたびに開くことが予想される。それにしてもあと3年もトランプと世界は付き合わなければならないのかと思うと、うんざりする。
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