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2018-01-23 00:00
「トランプ政変」は五分五分
杉浦 正章
政治評論家
米ドナルド・トランプ政権は20日2年目に入ったが、過去1年は税制や規制、そして経済に関する公約の多くがおおむね企業に歓迎された。雇用も順調だ。一方で政府機関は閉鎖され、1年間の高官大量退任は記録的だ。トランプの性格を反映して政権の政治の振幅の差の激しさを物語っている。しかし、2年目は中間選挙を意識した議会民主党の攻勢は避けられず、ロシアゲート事件も佳境に達する。大統領弾劾問題もささやかれており、波瀾万丈が予想されるが、これが「政変」という事態に直結するかは五分五分だろう。順調な経済については「オバマの遺産」との見方もあるが、遺産だろうが何だろうがトランプはついており、「つきも実力のうち」と見るべきだろう。政府機関も一時的に閉鎖されたが、米経済は難無くやり過ごすだろう。2013年10月に2週間の閉鎖に追い込まれた際、同年10-12月期の経済成長率が約0.5ポイント下押しされただけだった。それに先立つ1990年代半ばの閉鎖も経済は順調な足取りで進んだ。今回も一過性だろう。
しかし、トランプの政治を分析すると、組織を動かすというより、自らの直感を元に重要判断を下しているかのように見える。その象徴が“テレビ頼り”とも言える政治手法だ。最近のトランプは執務室にいる時間が急激に減り、一日4時間、時には8時間も寝室にこもっている。もちろん睡眠をしているわけではない。何をしているかといえば、テレビを3台持ち込みニュースを見る。そのニュースを根拠に友人に電話したり、ツイートする。ツイートは一日平均7、8回に達し、物議を醸す内容が多い。ツイートは政治外交の全てに渡るが、時には「私について何も知らず、なんの関わりもないのに、私についての本や主要記事を書いている人々は見ていて大変面白い。フェイクニュース!」と言った具合にメディアを攻撃する。総じて指導者は、隙を見せることを恐れて常時自分の立場を明確にすることを避けるが、トランプはその逆だ。全てをあからさまにして身をさらしている。その割には致命的な失言事件に発展しないのは、ギリギリの抑制が利いているのだろう。上級顧問のクシュナーはこの姿について「自分のやり方に固執しており、今後も決して変わらないだろう」と予言している。もっとも「便所のような国」発言が象徴するように、病的とも言える舌禍癖が、自らの身に災いする可能性は大きいだろう。
しかし、今年トランプを待っているのは生やさしい問題ではない。ロシアゲート事件と中間選挙だ。ロシアゲートは佳境に入っている。検察のロシア政府による米大統領選干渉疑惑の捜査が進む中、特別検察官モラーの捜査は昨年末前大統領補佐官のマイケル・フリン被告が連邦捜査局(FBI)捜査官への虚偽の供述を認めて司法取引に応じたことで、大きく前進した。現在は娘婿クシュナーや長男のトランプジュニアへと向かいつつあり、その先にはトランプへの直接尋問も予想されている。一部メディアはクシュナーが政権を去ることを予測する報道まで出ている。ニクソンのウオーターゲート事件をほうふつとさせる「大統領の犯罪」が暴かれかねない状況なのである。米議会の中間選挙は11月だが、3月から候補を選ぶ予備選挙が始まる。上院の改選者数は3分の1の35議席。下院は435議席全てが改選となる。現在の議席配分は上院が民主党49、共和党51、下院は民主党193、共和党238だ。上院35議席の内訳は民主党26、共和党8議席であり、民主党は守りの選挙となる。一方、下院は天王山となる。下院は現在共和党が40議席上回っているが、苦戦を強いられる。なぜかといえば共和党は引退するベテラン議員が多いからだ。現段階で20人が引退、転出を含めると30人を超える。
トランプが失政をすれば、大きく共和党票に影響が出る。下院で民主党が過半数を制すれば、法案や予算の審議に相当支障が生ずるうえに、トランプの公約は実現が極めて難しくなる。さらに重要なのはトランプ弾劾の動きが生ずる可能性が高いことだ。米議会における弾劾の仕組みは、下院が大統領を含む連邦官吏の弾劾訴追権を持ち、上院は大統領と連邦官吏の弾劾裁判権を持つ。下院が単純過半数の賛成に基づいて訴追し、上院が裁判し、出席議員の2/3の賛成で弾劾を決定する。過去にはクリントン大統領が、下院により弾劾訴追されたが、上院における弾劾決議は成立しなかった。ウオーターゲート事件のニクソンの場合は上下両院とも可決が可能となったのを見て、自ら辞任した。副大統領は大統領職を継承する順位で第1位となっている。したがって中間選挙の結果次第では、トランプが窮地に陥る可能性が十分ある。ニューヨークタイムズ紙は「歴代大統領は米国という大国をどう率いるかで戦ったが、トランプは自分を守ることで戦っている」といみじくも看破している。したがって上院議員リンゼイ・グラハムのように「1年過ぎたが、最悪の事態からホームランまであらゆる可能性がある」と予言する向きも出ている。もっとも日米関係は大統領が誰であろうと良好な関係を保つことが重要だ。テレビの評論家の中には安倍がトランプと親密であることを批判する空気が生じているが、外交を知らない証拠だ。例えば田中角栄がロッキード事件で窮地に陥っている最中でも、大統領フォードは来日している。外交と国内事情はわけて考えるべきだろう。安倍・トランプの良好な関係は国益そのものであり、これまで通り維持すべきことは言うまでもない。
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