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2018-01-29 00:00
新TPP着実な発効が先決
鍋嶋 敬三
評論家
トランプ米大統領が1月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で環太平洋連携協定(TPP)への復帰の可能性を示唆した。日本が主導した米国抜きの11カ国による新TPP合意の効果だろう。しかし、1年前の大統領就任と同時に選挙公約に従って真っ先にTPPを離脱しただけに、米国の利益を最優先した再交渉を前提にしており、その行方は予断を許さない。ホワイトハウス高官は演説に先立つ背景説明で、大統領がTPPを「悪い取引」と考えており、「基本的にもっと良い条件なら同じ諸国と同様の貿易協定の交渉に入る意思がある」と述べている。再交渉になればTPPそのものが空中分解する。新TPPは3月8日にチリで署名式が行われ、過半数(6カ国)の承認で発効する。日本政府は今国会中の6月までに協定と関連国内法案の承認を図り、2019年を目途とする協定の発効を確実にすることが先決である。
トランプ氏は演説で、自由貿易支持の条件として「公正で互恵的な貿易」をキーワードとして何回となく挙げた。多国間協定よりも米国に有利な2国間協定を重視してきたが、TPPを含む多国間協定も「すべての利益になるのならグループとしての交渉を考慮する」とも述べている。米国の利益確保を前提にした再交渉の検討を示唆したのだ。大統領は中国を念頭に「大規模な知的財産の盗み、補助金、国家指導の経済計画など不公正な経済慣行には目をつぶらない」と「公正さ」を力説したが、TPPこそはこのような不公正を防ぐ最良の選択としてオバマ前政権も合意したのではなかったか。トランプ政権は離脱した地球温暖化対策のパリ協定についても、米国に有利な条件の再交渉を前提に復帰の意向を示している。
米政権の「軌道修正」の試みには背景がいくつかある。まず、トランプ大統領は「米国第一主義は孤立を意味しない」と強がるが、TPPやパリ協定からの離脱、カナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉も展望が開けず、孤立感が深まった。第二に、政権内の力関係の変化もある。強硬派で「陰の大統領」とまで言われたホワイトハウスのバノン元上級顧問が政権を追われてティラーソン国務、ムニューシン財務両長官ら経済界出身重要閣僚の「現実路線」の影響力が強まったこともある。第三に、新TPPの合意成立の影響も無視できない。11カ国にとっては、米国が要求してくる2国間貿易交渉に対する「防波堤」になり得るからだ。
米国を含めた当初の12カ国TPPは世界の国内総生産(GDP)の38%を占めるメガFTAとなり、アジア太平洋で米国に取って代わろうとする中国に対する強いけん制力になり得たものだった。米国の離脱によって自らその力が減殺され、中国有利の状況が生まれることへの反省がトランプ政権内に生まれてきたとすれば、日本が描いている「復帰」への足がかりになるだろう。しかし、米国は11月に中間選挙を控え、農業などの圧力団体によるロビー活動が高まる時期を迎える。トランプ大統領としても簡単に大統領選挙で掲げた旗は降ろせない。日本としては米国の復帰を促すためにも、難航の末ようやく合意に持ち込んだ新TPPの2019年中の発効を着実に進めるよう各国への働き掛けを強めるべきである。
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