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2018-02-05 00:00
(連載1)米国の新国家戦略とトランプ政権のTPP政策
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
最近の米トランプ政権の発表あるいはトランプ大統領自身の発言で、オッと驚いたことが3つある。何れも、トランプ政策の基本部分の転換あるいは変質に関わるものだからだ。いやそれ以上に、過去30年間にわたり欧米世界や日本で流布した上滑りの国際政治や安全保障の考え方を見直し、それらの基本を問い質すものだからだ。それは第1に、昨年12月18日のトランプ大統領による国家安全保障戦略(NSS)の発表であり、第2は、今年1月19日のマティス国防長官による国家防衛戦略の発表、第3は、1月25日、26日のトランプ大統領の環太平洋経済連携協定(TPP)に関する発言である。以下、これらの要点を概観し、それとの関連でわが国の対外政策が直面している難しい問題にも最後に少しふれたい。
国家安全保障戦略と国家防衛戦略はセットにして理解すべきものだと考えるので、この二つの戦略で私が注目した点を挙げる。(1)中国やロシアを、米国の国益や価値観の対極にある世界を構築しようとする修正主義勢力、戦略上の競争相手と規定した。特に中国を第1の競争相手としている。(2)北朝鮮やイランを「ならず者国家」「独裁国家」と批判した。(3)米国が安全保障上最も重視すべきは、テロではなく国家間の競争だとした。(4)米国はより精強な軍を作り、伝統的な同盟を強化する。ダボスにおいてトランプ大統領は、米国のTPPへの復帰の可能性について言及した。これには「当初の協定よりずっと良いものになるなら」といった内容も不明瞭な条件をつけていて、まだ不確定要素が多い。しかしトランプ氏は中国の知的財産権侵害を厳しく批判しており、中国が資金力をテコに自らが主導する経済圏を広げようとしていることに対しては今では警戒心を有している。これとの関連で想起すべきは、もともとTPPは独自経済圏を広げる中国への対抗策でもあったということだ。
トランプ氏は大統領候補のときから、TPP批判を政策の最重要眼目の一つに挙げていたし、昨年1月に大統領に就任した直後に「TPPから永久に離脱する」とした大統領令に署名した。そしてこれを、トランプ政策の最大の眼目の一つとして宣伝してきた。それだけに、TPPを今でも「ひどい協定」としながらも、それに対する対応の見直しを述べたことは、大いに注目すべきことである。トランプ氏の最近の中国に対する批判と重ね合わせると、TPP発言と、新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略が示していることは、無関係とは言えないだろう。20世紀末から21世紀初めにかけて、特に欧米先進国や日本において、「グローバル化が進展する21世紀においては、国民国家とか国家主権、領土、領海、国境といった概念はますます意味を失う」という考えが広まった。そしてEUがそのモデルともみなされた。同時に、安全保障に関しても、国際テロなどが深刻になっている現代においては、国家間の対立を基本とする伝統的な安全保障は、もはや時代おくれのものになったとも言われた。このような考えは、国際政治におけるポストモダニズムと呼ばれる。
その代表的論者は、『国家の崩壊』を2003年に書いた英国のロバート・クーパーで、ちなみに彼は2005年に英プロスペクト誌から「世界最高の知性100人」に選ばれている。冒頭に私が「上滑りの国際政治や安全保障の考え方」と述べたのは、このような考え方を指す。EUや東アジアの状況を見れば分かることだが、現実はポストモダニズムを裏切った。トランプ大統領の考え方は、基本的には実利的な国益とか経済的な取引の観点から国際関係を見ていて、米政府が伝統的に有していた国際戦略的な発想は希薄で、ロシアや中国を「米国とは価値観が対立する戦略上の競争相手」とは見ていなかった。それはロシア国内で事業を行いプーチン大統領とも個人的関係を有していたティラソン国務長官についても言えることだ。したがって、彼らの考えも基本的には、ポストモダニズムの考え方に沿っていたと言えるだろう。(つづく)
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