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2018-02-07 00:00
核戦力見直しで「極東新冷戦時代」へ
杉浦 正章
政治評論家
「核なき世界」を掲げた前大統領オバマの方針は砂上の楼閣のごとく崩れた。もともとオバマ戦略はロシアと中国との合意なしに発表されたもので、脆弱性を秘めていた。逆に中露はオバマ戦略を“活用”して8年間にわたり核開発に精を出し、米国の裏をかいた。パワーゲームの現実を知らぬオバマのツケをトランプは払わされる結果となったのだ。したがって、米国が「核戦力体制見直し(NPR)」で、核抑止の再強化に乗り出したのは歴史の必然とも言える。中国は明らかにしないがロシアの保有する小型戦術核は4000発に達しており、米国は760発だ。朝日新聞は例によって社説で「歴史に逆行する愚行」と口を極めて米政府の方針を批判しているが、それでは中国とロシアの核はよいのか。昔から左翼の論法に中露など社会主義国の核は「よい核」で、米国の核は「悪い核」というものがあったが、いまだに同じ感覚を持っているとは驚いた。朝日は、世界は過去のいかなる時代より多種多様な核の脅威に直面している現実を、勉強し直した方がよい。
トランプの発表した「核戦力体制見直し」は新型の小型核兵器と核巡航ミサイルを導入して潜水艦などに配備するものだ。NPRは核の使用は「極限の自体に限る」としながらも核以外の通常兵器による攻撃にも使う方針を明記した。局地的な戦闘を想定して潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の一部の核弾頭を、爆発力を大幅に抑えた小型核に切り替える。都市に壊滅的な打撃を与える戦略核とは異なり、小型核は局地的な攻撃に使用される。その一方で艦船や潜水艦用の核巡航ミサイルの再配備に向けた開発も始める。これは小型核を、各地域に柔軟に展開できる利点がある。小型核の第一の対象はロシアである。ついで中国、北朝鮮の順となる。中露は朝鮮半島の非核化を口では唱えながら、北朝鮮の核開発や核爆弾の材料の搬入に目をつむり、極東における戦略的な優位を構築しようとしてきた。狡猾なる中露の意図を掌握しないオバマの大失策は、米国や日本など同盟国が多様なる核の脅威にさらされる現実を直視しないで、ありもしない理想郷を追い求めた点であろう。
米国防情報局の調査によるとロシアは、短距離弾道ミサイルや中距離爆撃機で運搬可能な重力爆弾や水中爆雷に搭載される戦術核だけで2千発を保有すると言われている。この戦術核の先制使用をちらつかせて周辺諸国を威嚇するのがロシアであり、米国はやはり戦術核による報復で圧力をかけざるを得ないのが実情だろう。一方北朝鮮に対してNPRは「後数か月で米国を核弾頭搭載のミサイルで攻撃できるようになる」と予測し、同時に「北朝鮮が米国を核攻撃すれば北の体制は終わる」と、報復により金王朝が壊滅する方向を明示している。NPRは「国際的安全保障環境は、大幅に悪化、世界はより危険な状態に陥った」と警告した。その上で小型核使用のケースとしては、サイバー攻撃を念頭に「インフラや国民が非核攻撃を受けた場合も含む」とした。このトランプの方針は世界の核軍拡を招く恐れがあるが、中国とロシアは今のところNPRに即応する軍備を増強する気配はない。しかし、両国が、トランプの世界戦略に唯々諾々と従う事はあり得ない。両国はNPRに対抗する技術開発をいずれは打ち出すだろう。そうなれば、世界とりわけ極東は「新冷戦時代」とも言える状況に突入し、日本は好むと好まざるとにかかわらず軍備増強を迫られる。
それでは、米国の小型核の開発で果たして「使える核」がより現実のものとなるだろうか。技術はすぐに移転し、模倣されるから北朝鮮やイランなどが製造の研究を始め、核の野望を抱く国々が増加する可能性は否定出来ない。もっとも「使える核」が現実のものとはなりにくいと思う。なぜなら、大国間の戦争はいったん戦端を開くと歴史的に見ても極限状態に至ってはじめて収まるのが常だからだ。だから、小型核を使用すえば堰を切ったように中型核、大型核使用への流れへと発展する。核戦争により世界が破滅する事態だ。従って小型核の使用は大型核の使用とどっちみち同じであり、普通の政治家なら抑制を利かせざるを得ないのだ。外相河野太郎がトランプのNPRについて「我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にした。高く評価する」と反応したのは当然であろう。拡大抑止とは同盟国への攻撃を自国に対する攻撃と見なして報復する意図を示し、第三国 に攻撃をためらわせて同盟国の安全を確保する考え方だ。世界唯一の核保有していない大国である日本は拡大抑止に頼らざるを得ない。
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