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2018-02-14 00:00
度し難い文在寅の対北融和姿勢
杉浦 正章
政治評論家
オリンピックを舞台に展開された日米韓首脳や北朝鮮代表らとの接触は、厳しい極東情勢を反映して微妙な展開を見せた。一つの流れは韓国と北朝鮮による一見融和に見える動きだ。これはとりもなおさず朝鮮労働党委員長金正恩が韓国大統領文在寅を日米と離反させる事に成功しつつあるかのように見える。金正恩は国連制裁決議が目指す北朝鮮包囲網に突破口を明けつつあるように見える。一方で米国は、副大統領ペンスが、あらゆる北との接触をさけ、近くさらなる制裁を打ち出す構えだ。米朝対話はそう簡単には実現しまい。文在寅を挟んで日米対北朝鮮のせめぎ合いが今後さらに展開して、情勢は流動性を秘めることになる。
まず、文の“度しがたさ”はまるで日本の民主党政権のルーピー首相と勝るとも劣らない姿を鮮明にさせているかのようである。首相・安倍晋三が「米韓合同演習をさらに延期する段階ではない。予定通り実施することが重要だ」とクギを刺したのに対して、文は、なんと「これは我々の主権、内政に関する問題だ。首相が取り上げても困る」と切り返したのだ。この発言は朝鮮半島問題を近視眼的にしか見られない文の外交・安保観の限界をいみじくも露呈させた。朝鮮半島問題はすぐれて極東安保情勢の枠内の問題であり、半島有事の際には日本の米軍基地が活用されることは、先の朝鮮戦争の例から見ても明白である。また極端な例を挙げれば、北に追い詰められた場合、韓国政府や国民の逃げ場は日本列島しかない。日本は地政学的に言って対岸の火災視出来ないのに、火元の韓国が「内政問題」というのは、聞いてあきれる判断力の欠如だ。さらに文は半島情勢を見誤って、米朝対話のアレンジをしようとして失敗した。文はあらゆる機会を通じてペンスと金正恩の実妹の金与正との会談を実現しようと試みた。南北対話を米朝対話に直結させようとしたのだ。しかし、ペンスは訪韓前の安倍との会談や米政府内での事前打ち合わせの結果、北側とは一切接触しないとの決意を固めていた。その結果ペンスは開会式に先立つレセプションで最高人民会議常任委員長金永南との同席を拒否、また、開会式でも金与正との同列での着席を拒否した。拒否したばかりかレセプションでは着席もせずに、5分で会場を離れた。胸がすくように、ことごとく接触を拒否したのであり、この米国の方針を知らないか、知らされていない文だけが砂上の楼閣作りに専念したことになる。
米国は北朝鮮と対話しないという立場表明と同時に韓国に対しても強い警告を送ったと読み取ることができる。「独走を戒める」警告を送ったのだ。そもそも文は北朝鮮から非核化に関するいかなる妥協策も聞いていないにもかかわらず、北と米国の接触を意図的に演出しようとしたのだ。核心の問題に対する文の浅慮に対して、ペンスは行動で不快感を表明したのだ。南北の和解と対話や北朝鮮の非核化問題は、韓米が確実な協力の中で推進する場合に限り効力を発揮する構図である。このことへの文の理解度はゼロに等しいことが鮮明となった。ペンスの警告を文が理解したかどうかは不明だ。どうも文在寅には同一民族だから北は核ミサイルを韓国に対しては使わないし、核は米国と日本向けだという考えが根底にあるような気がする。これが北への融和路線の根底となっているようだ。ペンスは「北朝鮮が話をしたいのなら話をする」と帰国後ワシントンポスト紙に語ったが、同時に「非核化に向けた意味ある行動」も求めており、そう簡単には米朝対話は実現しまい。金正恩が国連の経済制裁によって、相当こたえていることは、状況証拠が示すとおりだ。洋上での荷渡しで、しのごうとしているのがその顕著な現れだ。海上自衛隊のP3C哨戒機が1月20日、中国・上海沖の東シナ海の公海上で、国連安全保障理事会の制裁対象になっている北朝鮮船籍のタンカーとドミニカ船籍のタンカーによる積み荷の受け渡しを確認している。ひしひしと国際包囲網が狭まるのを感じているからこそ、金正恩は、オリンピックを好機ととらえ、“甘ちゃん”の文をあの手この手で籠絡して、包囲網の一角を崩す戦術を展開したのだ。これを証明するかのように北の労働新聞は「内外の期待と関心を呼んだ今回の訪問は、北南関係を改善し、朝鮮半島の平和的環境を整える上で、有意義な契機になった」と代表団を褒め称えた
さらに金正恩は金与正を通じて、「早い時期に面会する用意がある。都合の良い時期に訪朝してほしい」と、南北首脳会談の考えを口頭で文在寅に伝えた。要請は、2007年10月以来3度目となる会談の開催を求めたものだが、文は唯々諾々とこれに乗りそうだ。金正恩にしてみれば文の訪朝を実現させれば、国際包囲網のみならず、日米韓の連携にもひびを入れさせることが出来る絶好のチャンスとなる。さらに米国の限定攻撃などを避けることも狙っているのだろう。訪朝要請は具体的な時期を示さず、口頭での要請にとどまった。国際社会の制裁への一時しのぎとして、対話に前向きな文在寅への大きな仕掛けをしたのだ。こうみてくると、まるで文在寅は、あの“ルーピー鳩山”をほうふつとさせる。“ルーピー文”はまったく極東情勢をどこに持って行くか分からない危険性がある。韓国政府内部には首相李洛淵のように「われわれは決して(北朝鮮の)非核化を除いて対話をすることはあり得ない。まさに非核化のために対話はあるのだ」と訪韓した自民党幹部に説明する向きもいる。しかし、これも甘い。核・ミサイル路線の追及はまさに金正恩の存在理由・レゾンデートルである。“核あるが故に我あり”の路線で、軍部を引っ張っているのであり、非核化などは北に政変が起きでもしない限りあり得ない幻想なのだ。
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