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2018-02-27 00:00
金正恩は“国宝”核ミサイルを手放さない
杉浦 正章
政治評論家
韓国大統領文在寅の対北融和姿勢がもたらすものは、はっきり言って金正恩による“やらずぶったくり” に遭遇するだけだろう。国連の経済制裁が効き始めたのか金正恩は、苦し紛れに南北首脳会談という呼び水をまいて、9月の建国70周年に向けて、核・ミサイルの完成を喧伝、経済の悪化を回避したいのだ。まさに北の手の内で踊らされているのが文在寅だ。一方で米国が文のペースに乗って、大陸間弾道弾(ICBM)実験凍結と引き換えに妥協路線に移行すれば、ノドン200発を向けられている日本は置いてけぼりを食らう可能性がある。日本を離反させて米極東戦略は成り立たない。金正恩みずからが苦し紛れに重要な戦略的な転換をしようとしているかに見えるが、その実は父親と同様にいつか来た道、すなわち国際社会を欺く路線を歩むだけだろう。しかし、米国がそこを読んでいないはずはない。トランプの長女イバンカは文在寅との晩餐会の席上、融和ムードにクギを刺している。「朝鮮半島が非核化されるまで最大限の圧力をかけ続けることを改めて確認したい」と文に迫ったのだ。文は「非核化と南北対話を別々に進めることはない。二つの対話は並行して進めなければならない」と約束した。どうも文という人物は両方に“いい顔”をする癖が抜けないようだが、その真の狙いは南北首脳会談の実現にあり、北のペースにはまりかねない姿勢と言える。
北の外交は一見巧みに見えるが、常に馬脚が現れる。妹金与正を派遣したことは、肉親を外交に使わなければならない切羽詰まった状況を反映したものだろう。なぜなら、北は文に“本気度”を示す必要に迫られたからだ。与正のほほえみ外交の影に“氷のような微笑”を感ずるのは筆者だけではあるまい。文を手玉に取った与正は帰国して金正恩に報告。金正恩は、南北関係をさらに発展させるための具体的な方途を指示したとみられている。その内容の一つが「ICBM発射凍結」のカードだ。日本上空を飛ぶICBM実験を中止して、国際社会の関心を呼び、アメリカを乗せようとしているのだ。もちろん国内向けにはミサイル開発を放棄しないし、開発はどんどん進めることができる。こうした北の“疑似”緊張緩和攻勢の背景には国連による制裁決議の影響が徐々に生じ始めている実情がある。政府は、東シナ海の公海上で北朝鮮船籍のタンカーとドミニカ船籍のタンカーによる積み荷の受け渡し「瀬取り」を確認している。苦し紛れに抜け道の対応が始まっているのであり、国連決議の影響は今年後半にはもっと鮮鋭に生じることが予想される。
しかし金正恩は、この影響をなんとしてでも回避したいのだ。最重要行事である9月9日の建国70周年に向けて、経済の困窮は、自身の権威維持の上で最も得策でないことなのだ。このためのとっかかりが文の融和姿勢にあるのだ。おそらく北の狙いは70周年に先だって、南北首脳会談を実現して、経済支援を取り付けたいのであろう。最終的には米朝接触を実現するところにあるのは言うまでもない。すでに韓国は統一省報道官が「適切な機会に北朝鮮と米国が建設的な話し合いに入ることを期待する」と、なりふり構わず米朝対話を推進しようとしている。日米はこの金正恩が掘った蟻地獄に文在寅がはまりつつあることを、傍観することは出来まい。北朝鮮との交渉は歴史的に見て、ワンパターンである。約束をして経済援助を獲得すれば、臆面もなく反故にする。2012年に、米朝間で合意した核兵器と長距離弾道ミサイルの実験の凍結、国際監視下での寧辺(ヨンビョン)核関連施設におけるウラン濃縮の一時停止という約束はとっくに反故にされており、何かの一つ覚えのごとく同じ手口を今回も通用させようとしているかに見える。
全ての問題は北が核ミサイル開発を放棄するかどうかに絞られる。放棄しなければ極東情勢は“気違いに刃物”の状況にさらされ続ける。しかし、北がこの核ミサイル開発を放棄することはあり得ないだろう。従って米朝会談が実現しても、妥協の構図は描けないのが実情だ。妥協どころか物別れの連続となるのは必至だろう。なぜなら金正恩にとって核ミサイルは、珠玉の“国宝”そのものであり、手放せばそれこそ体制崩壊につながりかねないからである。文在寅が開けられた日米韓連携弱体化の穴を、日米が協調して塞ぐ方向へ持って行かなければなるまい。
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