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2018-02-28 00:00
西側外交、無力感の憂鬱
鍋嶋 敬三
評論家
ドイツで2月中旬、開かれた2018ミュンヘン安全保障会議(MSC)は、世界の危機にどう対処するかが焦点であった。しかし、結果は欧州や米国を中心とする西側世界がロシアや中国からの攻勢に対して、リベラルな国際秩序を維持するための問題解決能力や意思を欠いていることへの無力感が支配したようである。欧州はキリスト教的文明に根ざした共通の歴史観に基づいて、第二次大戦の惨禍の反省の上に統合を進めてきた。しかし、中東からの難民の急激な流入をきっかけにした民族間の軋轢が欧州に激しい動揺を引き起こした。英国の欧州連合(EU)離脱、欧州の盟主を任じるドイツの大連立を巡る政局不安など長期的な不安定要因が世界を揺るがしている。
ミュンヘン会議を総括したカーネギー国際平和財団ヨーロッパの上級研究員で著名なジャーナリストであるJ.デンプシー氏は「世界の安全保障、特にリベラルな国際秩序に影響する多くの脅威に対処するための外交の無力ぶりが明らかになった」と評した。その分析によれば、背景の第一は米国のリーダーシップの欠如である。次いで分裂したヨーロッパがある。第三に北朝鮮の核武装の野望に取り組むのに必要な外交が完全に麻痺状態に陥っていることを挙げた。要するに、(トルコ、ポーランドやイスラエル、ロシアなどを挙げて同氏は)様々な危機にどのように対処するかについての合意形成能力に全く欠けていたとの判定を下したのである。
目の前の課題として北朝鮮、北大西洋条約機構(NATO)の同盟関係、ロシア、ウクライナ、中東の五つが挙げられているが、各国首脳や外相らの発言から見えたのは「内向き、守りの姿勢」であり、これらの課題に対する政治的意思とリーダーシップの欠如だとデンプシー氏は批判した。最も緊急の課題に関する同氏の問い掛けに対しては「大国間の信頼関係の欠如」(英国BBC放送首席外交記者)、「米国の予測不可能さ」(J.ソラーナ前EU上級外交担当)との答えが返ってきた。西側世界の課題についてはユーラシア・グループのI.ブレマー会長は西側があまりにも分裂し、内向きになったため「長期戦略が立てられないことにある」という。
W.バーンズ・米カーネギー財団会長はトランプ政権の無謀な孤立主義が同盟国を不安にさせ、(中国やロシアなどの)ライバル国を勇気付けると指摘。「西側にとっての試練は、歴史的転換期にあってリアリズム(現実主義)と確信をもって行動できるかどうかだ」と語っている。ミュンヘン会議に参加した河野太郎外相は数多くの外相らとの会談をこなした現地での記者会見で「経済や難民問題を抱え多層化するヨーロッパに対して複眼的な外交ができた」と成果を強調した上で、「リベラルな国際秩序の維持は日本外交にとって重要で、そういう認識をヨーロッパと共有していきたい」と語った。北朝鮮だけでなくロシアや中国という安全保障上の脅威が目前にある日本として欧州との積極的な協働作業が長期戦略の上で欠かせないのである。
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