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2018-03-10 00:00
米は北朝鮮の「時間稼ぎ」に惑わされるな
杉浦 正章
政治評論家
人を錯誤におとしいれて財物をだまし取る者を「かたり」という。首相・安倍晋三は希代のかたりが隣に住んでいると用心した方がよい。祖父金日成も父親金正日も世界を欺いて国家を生きながらえさせてきた。今回も厳しい国際包囲網突破を目指して金正恩は着々とかたりの布石を打っている。韓国大統領文在寅はやすやすと突破され、金は文を使ってトランプを籠絡しようとしている。北は核ミサイル完成に向けて「時間稼ぎ」をしているに過ぎない。短兵急な対応は極東に危機をもたらしかねない。安倍が、懐疑的な姿勢をくづしていないのは救いだ。ここはトランプの“前のめり”にクギを刺す必要がある。
トランプは自国の防衛のため北に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を破棄させても、日本は核兵器や細菌兵器を搭載可能なノドン200発を向けられたまま、置き去りにされかねない。極東情勢が激動の時に国会は朝日新聞に扇動されて野党が森友だの加計だのの論争に明け暮れしているが、いいかげんに目を覚ませといいたい。米大統領は普段はホワイトハウスの小さな記者会見場に姿を見せることはないが、韓国特使との会談後現れたトランプの姿を見て、「危うい」と感じたのは筆者だけだろうか。北に踊らされて、はしゃいでいる姿だ。韓国の特使の報告に全て乗せられて金正恩との会談を、千載一遇のチャンスと飛びついた感じが濃厚だ。トランプは北との直接交渉に持ち込むことによって、4半世紀にわたって米国大統領を翻弄(ほんろう)し続けてきた北の核ミサイル問題を一挙に解決出来ると踏んでいるのだろうか。そうなら愚かとしか言いようがない。まずここは真偽の見極めが先決だ。
トランプはロシアゲートのスキャンダルでメディアの攻撃にさらされ、支持率は30%台と、歴代大統領でも最低の状態にある。秋には中間選挙があり共和党は指導力欠如の大統領のせいで苦戦を免れない。ここは外交に突破口を見出すしか道はないのだ。その弱点を狙って金正恩はまず韓国の左派大統領文在寅を落とし、ついでトランプを落とそうとしているのだ。北の最終的な狙いはまず包囲網を分断し、米軍を朝鮮半島から撤退させることにある。全てがそこに向けての布石であると考えるべきなのに、トランプは目先の舞台ばかりに目を奪われているかのようである。トランプが“伝言”だけを頼りに「彼らの声明はとてもポジティブなもので、世界にとっても素晴らしい」と手放しで賞賛するような事態ではないし、韓国特使らに米朝首脳会談を「即答」するほど、軽い問題でもない。まずトランプは韓国の「伝言」だけに頼らず、北の外交の本質を見極める必要があるのだ。本質とは徹底した欺瞞外交である。史上数知れぬほど国際社会を欺いてきた北朝鮮は、2005年には、6者協議で(1)核計画の放棄、(2)米国による体制の保証、(3)北への経済支援に応じた。そして経済援助を得た後は、どこ吹く風で核兵器の製造にいそしんだ。今回も同様の手口を取ろうとしているのだ。金正恩が(1)非核化に尽くす、(2)核・弾道ミサイル実験を控える、(3)米韓合同演習を理解する事などを条件に、米側に早期のトップ会談を求めている。
もともと(1)から(3)までは米国が北に条件として提示しているものであり、金正恩はこれを受け入れる決断をしたことになる。しかし、問題は「非核化」が何を意味するかだ。米国は合意を急ぐあまりに詳細を詰めない妥協をしてはならない。北に関してはつねに「やらずぶったくり」を懸念しなければならない。せっかく作った“貧者の宝物”である核ミサイルを手放すとでも考えているとすれば甘い。そもそも10年前とは前提条件が様変わりしているのだ。10年前の北の要求は「核兵器製造計画を放棄する代わりに体制を保証する」であったが、今回は「核ミサイル攻撃能力を持った上で米国と対等に話し合う」路線となっている。要するに核ミサイルプログラムの再稼働を常にちらつかせながら、次から次へと譲歩を引き出す作戦なのだ。過去にジョージ・W・ブッシュもその作戦にはまって北をテロ支援国家から削除したが、時を経ずして核開発は再開だ。従って、たとえ話し合い協議に入っても、現行の厳しい国際制裁を維持する必要があることは言うまでもない。そればかりか北が核ミサイルを全て破棄し、国連の視察を受け入れて、それを確認するまで手綱を緩めてはならないのだ。北に関しては、全てを疑ってかかるのが常道なのだ。韓国の文在寅は4月末にも金正恩と会談、トランプは5月までに金正恩と会談することになっている。しかし、一連の会談は長い非核化の道への第一歩に過ぎない。安倍は会談を急ぐ必要はあるまい。一連の接触を見極めた上で行動に移せば良いことだ。むしろ安倍は、4月のトランプとの会談では、北の手玉に取られないようトランプに友情ある説得をすることが肝要だ。日米は核とミサイルを放棄させるための確たる態勢を整え、最大限の圧力を今こそ継続しなければなるまい。韓国の文在寅は度しがたいから説得は利かないが、トランプには拙速を戒め、冷静な見極めを求めるべきだ。
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