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2018-03-12 00:00
トランプ氏「一生に一度」の陥穽
鍋嶋 敬三
評論家
ドナルド・トランプ米大統領が3月8日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の招きを受け入れ、5月までに初の米朝首脳会談を開くことに同意した。文在寅韓国大統領が北に派遣した特使の報告をトランプ氏が受け、その場で会談を受諾したのだ。1993年の朝鮮半島核危機から25年の節目に「千載一遇のチャンス」と「取引師」の勘が働いたのか、即決だった。トランプ氏は日頃、「一生に一度のブレークスルー(飛躍的進展)」という観念を好んでいるという。金氏の方は核放棄への国際的圧力が強まる中、瀬戸際で打った「非核化の意思表示」は体制維持のための深謀なのか。11月の中間選挙で苦戦が予想されるトランプ氏は「願ってもない取引」と飛び付いたが、歴代の米大統領がそうだったように、金氏三代の手玉にとられるのではないか?
トランプ氏の即断で決まった米朝サミットについて専門家から懸念の声が聞こえてくる。第一に、大統領が韓国特使の前で即決したことだ。同席したマクマスター大統領補佐官、マチス国防長官が懸念を示したが、公然と反対の声を上げなかった。ティラーソン国務長官はアフリカ歴訪中で蚊帳の外だった。第二に、政権内のぎくしゃくがある。ホワイトハウス内部に加えて国務省との間の調整ができていない。与党共和党の執行部との間でも意思疎通が不十分だ。第三に、外交体制が確立していない中での「独断」である。対北朝鮮政策を統括してきたJ.ユン氏が国務省を去り、V.チャ氏は駐韓国大使指名を辞退した。大統領の圧力主義と相容れなかったからという。アジア太平洋担当の国務次官補は議会承認が遅れ就任していない。外交実施体制が全くできていない中で、あと数週間で首脳会談を開こうというのだから懸念が深まるのは当然だ。
基本的な問題がある。第一に、「朝鮮半島の非核化」。南北首脳会談を4月末に板門店で開くことを韓国政府は3月6日に発表したが、その理由として「北朝鮮は朝鮮半島の非核化の意思を明白にした」ことを上げた。これは南の韓国も含めた非核化であり、米国の核の傘を認めないということだ。文大統領自身も6日の陸軍士官学校卒業式で「朝鮮半島の非核化と平和を作り出す自信」を誇示した(読売新聞)というが、自ら北の主張に手を貸すものではないか。第二に、「北に対する軍事的脅威が解消され、北の体制の安全が保証されるのであれば、核保有の理由がないということを明白にした」こと。これは在韓米軍の撤退、米韓軍事同盟の解消を北が意図しているということだ。第三には、朝鮮休戦協定を米朝の平和条約に切り替えるのが北朝鮮の主張である。
米朝サミット開催前に、このような基本問題について、トランプ大統領の基本戦略が確立し示されなければならない。今はっきりしていることは9日の安倍晋三首相との電話会談で確認した「完全、検証可能な不可逆的な非核化に向けた確実な手段を講じるまで圧力を維持、国際的な制裁を実施するため韓国との3カ国協調体制を続ける」ことだけである。チャ氏は「首脳会談に失敗すれば、戦争の瀬戸際に追い詰められる」と警告した(ロンドンの国際戦略研究所M.フィッツジェラルド氏)。ニューヨーク・タイムズ紙は社説で「トランプ氏は何の見返りもなしに会談に同意した。大成功になるか、決裂して失敗するか、大ばくちになる」と懸念を示した。そのような賭けは願い下げである。
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