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2018-03-16 00:00
(連載2)「世界との対話」および「日米対話」に参加して
河村 洋
外交評論家
これは現代の生麦事件とも言うべきもので、これでは諸外国が中国と安心して経済関係を深めることはできないと思われます。また中国の政府も国民も、義和団の乱のように諸外国の居留民や経済利権の安全を脅かす行為が列強の介入を招いたという歴史的事件を忘れてはなりません。すなわち、中国と国際社会の間で共通の規範や認識がなければ民間企業が安心して経済交流などできないということはもっと強調されてもよかったと思われます。中でも中国の「一帯一路」構想には安倍晋三首相も日本が積極関与すべきと発言していましたが、本当にユーラシア大陸の横断ルートを中国主導で開発するというならウイグル、チベットでの人権問題は考慮されねばならないでしょう。現状では日本企業が当地で安全に活動できると思えぬばかりか、同じ民族が居住する中央アジア諸国やトルコの反発にも配慮の必要があると思われます。
またイギリスのAIIB加盟にヨーロッパ諸国が続いたことから、日本も中国との経済関係強化にはこれに加盟すべきではないかという議論が優勢を占めたようですが、そこまで言い切ることには拙速の感が否めません。そもそもイギリスのAIIB加盟を強力に推し進めたのはキャメロン政権期のジョージ・オズボーン前財務相でした。当時のオズボーン氏はデービッド・キャメロン前首相の後継者の最有力候補でした。しかしブレグジットによるキャメロン内閣退陣に伴いオズボーン氏も閣僚から一議員となった今、メイ政権下では中国への対処で安全保障問題の比重が増大しています。前内閣で内相の地位にあったテリーザ・メイ首相は、ヒンクリー・ポイントおよびブラッドウェル原子力発電所への中国の投資にスパイ活動を呼び込みかねないと警戒していました。また極東での「航行の自由」作戦への参加も強化してゆく方針となっています。さらにブレグジットを機に保守党内ではジェイコブ・リースモッグ下院議員を中心としたナショナリストの勢力が強まっていることも見逃せません。
リースモッグ氏は有力閣僚の経験がないので近い将来に首相になるとは考えにくいのですが、世論調査によっては保守党の次期指導者として高く期待する向きもあるようです。彼は反EUの発言が目立つ一方で対中観は明確でありませんが、ナショナリストである以上は中国の市場に惹かれて迎合することは考えにくいです。そして労働党のジェレミー・コービン党首はヨーロッパとの関税同盟への残留案を打ち出すなど、財界の要望との現実的な妥協の姿勢は見せていますが、こちらも対中観の方は不明確です。いずれにせよイギリスで中国に宥和的なオズボーン路線が後退する見通しである以上、日本のAIIB加盟はもっと慎重になっても良いと思われます。しかもAIIBが既存の世界銀行やアジア開発銀行とは競合より協調の方向と言うなら、なおさらと思われます。
さて、本題の「中国かロシアか」に立ち返ると、両国が西側のポピュリズムどう見ているのかも新時代へのパワー・トランジションを考えるうえで重要になると思われます。中露両国ともポピュリズムに混乱する西側の政治を見て、今や自分達の強権政治こそ新たな国家統治モデルだと主張し、ハード・パワーのみならずソフト・パワーでの躍進も狙っているように見受けられます。しかしながら、西側での反エスタブリッシュメントの動きが自国に飛び火するようなら、両国とも国際政治でのパワー・ゲームに入り込み過ぎると返り討ちに遭う危険もあるでしょう。中国で習近平国家主席が終身までの任期延長に踏み切ったのも、大衆の反乱を抑える意図もあると思われます。またロシアではプーチン政権への諦めムードの傍ら、生活水準に対する国民の不満も高まっているとも言われます。そうした中で、プーチン大統領は来る選挙での当選を果たしたとして本当に額面通りに2024年の任期切れで政界を引退するのかという疑問は付きまといます。そうした観点から、予測不能な世界への羅針盤にはポピュリズムの問題も深く議論してゆく必要があると思われます。以上、本稿で述べたような国際情勢を考慮すれば、日本の政策関係者が欧米を中心に対中脅威への問題意識の徹底を訴えることは良いのですが、それがジャパン・ファーストであってはならないでしょう。欧米の関係者に日本はロシアやイスラム過激派の脅威を軽視していると見られると、彼らに対する中国問題の力説も徒労になりかねません。やはり国際公益としっかり結びつけた対中政策を模索しないと、諸外国に対する説得力はないと思われます。また、日本のおける中国研究が欧米をはじめ諸外国にとっても政策的に有意義な質と水準になっているのかを常に問いかける必要もありそうです。(おわり)
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