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2018-03-27 00:00
自民党憲法改正推進本部の動きについて
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
自民党の憲法改正推進本部が、改憲案をまとめる方向を固めたという。今月に入ってから、「森友祭り」を理由にして、多くの論者が「憲法改正は不可能になった」と論じていただけに、自民党案を一本化して提示する方向を固めたことは、評価したい。「必要最小限度」の文言を、取り除いたという。望ましいことだと思う。石破氏らの「曖昧だ」という指摘を取り入れ、「自衛権明記」を主張していたグループの意見も取り込んだ形だという。私も、石破氏と同じ考えなので、この文言を取り除くのは、大変に良いことだと思う。
憲法学では、「必要最小限」という政府見解の歴史的展開の中で生まれた概念を、「フルスペックの軍隊ではない」自衛隊が行使する「フルスペックの自衛権ではないもの」といった話で解説してきた。それによって思いついたときに「政府を制限するのが立憲主義だ」などといった政治運動上の主張をする間口を確保してきた。しかし日本人の誰も「フルスペックの軍隊」なるものについて理解しているわけではなかった。最悪なのが、憲法学に染まってくると、「フルスペックの軍隊」とは戦前の日本の大日本帝国軍のようなもので、しかもそれは憲法の規制を離れた国際法が認めているものだ、といった全く根拠のないデマが流布されたりすることだ。
国際法上の自衛権は、「必要性(necessity)」と「均衡性(proportionality)」の原則によって規制されている。憲法典上の根拠のない意味不明の憲法学ジャーゴンを排し、国際法規範による規制を直接取り入れることが、望ましい方向性だ。「必要最小限」概念を憲法典から取り除くことは、規制が弱まることを意味しない。本来、憲法学の基本書による「自衛戦争」の規制から、国際法規範による「自衛権行使」の規制に、議論をシフトさせることが望ましいのである。「自衛隊」が「実力組織」と描写されることは、曖昧さの余地を残す。だが少なくともそのような存在である自衛隊が、「国際法上の軍隊」であってはいけない理由はない。
「森友祭り」は、まだしばらく続くだろう。国会の三分の一を持っていない改憲反対派は、政治運動を通じて改憲に反対するしかない。もっとも公明党をはじめとする自民党以外の政党が、どのような立場をとってくるかは未知数である。そもそも自民党ですら、まだ条文案の確定という段階には進まないのだという。改憲問題をアベ問題と同一視する動きは、今後もさらに高まっていくのだろう。おそらくそのような姿勢は、極めて近視眼的なものだと私は思うのだが、直近の改憲案の行方に影響を与えないわけでもないだろう。改憲案の行方は、まだまだどうなるかわからない。それにしても議論の記録は残る。行政公文書なるものは、キャリア官僚群がその気になれば、組織的に改ざんされる。だが、公の議論の記録は、そうはいかない。今後も、歴史に残る議論を期待したい。
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