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2018-03-29 00:00
西側とロシアの外交官蹴りだし合戦の落としどころ
松井 啓
時事評論家、元大使
まさに冷戦時代を彷彿とさせる外交官国外追放の応酬が始まった。端緒は3月4日にロンドン郊外で起きた元ロシアスパイの暗殺未遂事件にロシアが関与したとメイ首相が断定してロシア外交官を一斉に追放すると発表したことである。英国はEUからの離脱交渉が難航しておりメイ首相の権威は下がってきているので人気回復が必要なのだろう。更に、EU27カ国もこれに同調して追放を発表しているのでその数はこれまでのところ合計140人を超えている(英27、ウクライナ13、仏、独、ポーランド各4、チェコ、リトアニア各3、デンマーク、オランダ、イタリア、スペイン各2人等、更に米60人以上、カナダ4人)。この時期にEU全体のタガの弛みを引き締める必要があり、ロシアを西側の共通の敵に見立てて結束を強化する狙いが見え隠れする。
他方ロシアが沈黙しているはずはなく、根拠のない言いがかりだとして報復措置に出ることをプーチン首相が明言しているので、事態は更に拡大する可能性がある。石油価格下落とウクライナ制裁で低迷して経済に不満な新世代が拡大しているにもかかわらず、何とか従来通り7割の得票率で4期目の大統領選に勝利したプーチンにとってはこのような包囲網は自己基盤の強化に格好の口実を与えるだろう。ロシア国民は辛抱強く自尊心が高く、ナポレオン軍にもヒットラー軍にも負けなかったことを誇りとしているので、プーチンの強硬手段によって更に制裁が強化されても国民の結束に訴えるプーチンの政策に反対はしないであろう。
外交官追放はこれまで「相互主義」に乗っ取った「目は目を」の連続となるが最終的には締まりのない結末となるのが落ちである。西側は最終的な落としどころを考えて出発したのであろうか、何らかの裏取引があるのだろうか。国民をどう納得させるのであろうか。何れにせよ漁夫の利を得るのは中国である。日中貿易戦争、朝鮮問題等に関しアメリカとの交渉を強化できる絶好のチャンスである。
日本はこの際決して表立って突出してはならない。他方、安倍首相にはこれからプーチン大統領、トランプ大統領と会談する様々な機会が予定されているので、この合戦を痛み分けで収拾させる方途を検討しておくべきであろう。
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