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2018-04-13 00:00
(連載1)大統領選の大勝利で「ロシアは英国に感謝しなくてはならない」
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
この3月4日に、英国で元2重スパイと言われるロシア人のセルゲイ・スクリパリと娘のユリアが意識不明の状態で発見され、英露関係さらには欧米とロシアの関係が一挙に悪化した。この問題に関しては、3月21日にラブロフ外相が訪日した際に、河野・ラブロフ記者会見でも触れられた。ロシア側の言い分や日本の対応に対して、疑問を呈したい。この事件に関して英国メイ首相は、「ロシア関与の可能性が極めて高い」と発表し、ソ連時代に開発されていた化学兵器級の神経剤による殺人未遂とした。英国は使用された神経剤のサンプルを国際機関の化学兵器禁止機構(OPCW)に提出し、いま分析中である。メイ首相はロシアを主権侵害の廉で厳しく批判し、ロシアの外交官23人を追放、ロシアも対抗措置として英外交官をやはり23人追放した。
報道によると、この対立に関しては米国や独、仏、伊、オランダ、デンマーク、ポーランド、バルト3国などEU17か国やウクライナ、カナダ、オーストラリアを含む計26か国が英国の立場を支持してロシアの外交官約140人の追放を決定した。米国の追放は60人にのぼり、シアトルのロシア領事館の閉鎖措置もとられた。アイスランドは外交官追放ではなく高官の対話を停止した。EUの中では現指導部が親露的と言われるハンガリーやチェコも英国を支持し外交官追放に加わった。日本を除くG7諸国は全て英国の立場を支持しロシア外交官を追放している。ただ、ブルガリア、ギリシャ、オーストリア、ポルトガルなどは加わっていない(3月28日現在)。6月にロシアで開催されるサッカーのW杯には、多くの国が高官派遣を控えるという。
ロシア側は英国にロシア批判の根拠を示す事実関係の証拠を提出するよう求めた。また訪日時のラブロフ外相は記者会見(3月21日)で、事実関係の調査には数か月要するのに、その結果も出ない内に英国がこのような措置を取るのは、明らかに根拠のない挑発的な反露政治行動だと強く批判した。ロシア国内では、大統領選挙を前にしてロシアが国際的に非難を受けるような行動をとる動機がないとか、またサッカーW杯ロシア大会を前にしたロシアの権威失墜を謀った策謀だとの論が展開され、反露的な英国当局の自作自演だということが強く示唆されている。ロシア国民はほとんどがロシア当局のこの論を信じており、国際的なロシア敵視の被害者意識を強めて、かえって国民的な団結を強めている。
ロシアが主張する「事実関係の調査結果も出ていない時にロシアを批判するのは明らかに政治的な挑発」との反論で想起されるのは、その言に反するこれ迄のロシア自身の行動様式である。誰でも、自らの行動を通じて他を見るものだ。3点ほど事例を挙げたい。(1)1997年1月に日本海でロシア輸送船ナホトカ号が荒波で破損、分断されて、重油の流出で北陸地方沿岸が甚大な被害を受けた。この時、ロシア側は事故直後に、つまり一切の調査が行われる前に「漂流物が衝突して輸送船が破損した」と公表して責任を他に転嫁した。実際は27年使用した船体の老朽化とその構造が原因であった。(2)2000年8月には、ロシアの原子力潜水艦クルスク号がバレンツ海で沈没して、乗組員118人が死亡した。この時もプーチン政権は、調査の前に直ちに「他国の潜水艦か大型戦艦に衝突された」と発表した。実際は、潜水艦内での爆発事故だった。(3)ロシアのオリンピック選手の組織的ドーピング疑惑に関し、世界反ドーピング機関(WADA)による信頼できる証拠が数多く挙げられても、プーチン大統領やロシア当局はそれを真っ向から否定し、「反ロシアの政治的陰謀」だと非難した。また事実を明らかにしようとしたロシア選手が「国賊」扱いをされたり、やはり事実解明に努力したロシアの反ドーピング機関関係者たちが相次いで不審死を遂げたりした。(つづく)
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