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2018-04-18 00:00
(連載1)ネオコンに評価されないボルトン補佐官
河村 洋
外交評論家
ドナルド・トランプ米大統領は政権再編でレックス・ティラーソン国務長官とH・R・マクマスター国家安全保障担当補佐官を更迭し、マイク・ポンぺオCIA長官とジョン・ボルトン元国連大使をそれぞれの後任に指名し、国際社会に衝撃が走った。北朝鮮危機が深まる中、トランプ氏への忠誠心が高いタカ派の指名は全世界の外交政策の専門家に懸念を抱かせている。ポンぺオ氏は上院の承認を待たねばならないが、ボルトン氏は4月9日に執務を開始した。歯に衣着せぬ言動のボルトン氏と常識にとらわれぬ言動のトランプ氏は互いに馬が合うと一般には見られている。しかし両者の間では外交政策観にある種の齟齬が見られる。特にボルトン氏は一般にはネオコンと見なされ、イランや北朝鮮のような無法者国家へのレジーム・チェンジを積極的に主張する一方で、トランプ氏はビジネスマン式の損益思考と孤立主義に傾倒している。そうしたことから、政権移行期にボルトン氏の国務長官起用が噂されたが私はそれに懐疑的であった。トランプ氏とマクマスター氏のミスマッチはあっても彼が国家安全保障担当補佐官に任命されるとは思わなかった。
また、ボルトン氏とトランプ氏の間には、ロシアと中東における政策の齟齬も見られる。BBCが3月23日に報じた内容によると、両者の政策が一致するのは5件中3件だけである。両者とも北朝鮮への先制攻撃は正しいと信じている。イランについても必要なら空爆も厭わない。さらに両者とも国連を信用せず、主権国家に基づいた世界システムの方が好ましいと考えている。他方、ボルトン氏はイラク戦争でのサダム・フセインの脅威除去は正しかったと強く信じており、トランプ氏とは正反対の立場である。ロシアに関しては、皮肉にもボルトン氏は前任者のマクマスター氏がトランプ氏とこの問題をめぐる衝突を余儀なくされたにもかかわらず、2016年大統領選挙でのロシアの介入を認めている。この観点からすれば、シリアおよびその近隣地域でのロシアの支配がボルトン氏とトランプ氏の間で将来の摩擦の火種になる可能性も有り得る。著名な専門家からの激しい批判があっても、トランプ氏は以下の悪名高き選挙公約に固執するほどである。そうした公約には貿易相手国が同盟国か否かにかかわらず関税引き上げ、メキシコとの国境の壁建設の予算を勝ち取れなかったので現地に軍を派兵、TPPから撤退、気候変動をめぐるパリ協定の破棄などが挙げられる。これでは誰が補佐官であってもトランプ氏との衝突を回避することはきわめて難しい。
さらに厳しい批判が寄せられているのはかつての仲間であった「ネオコン」からで、彼らのほとんどは選挙中にはネバー・トランプ運動に参加していたが、ボルトン氏は終始一貫してヒラリー・クリントン氏ではなくトランプ氏を支持していた。ここで、こうした批判の声を列挙してみたい。選挙期間中に反トランプ運動を主導したジョンズ・ホプキンス大学のエリオット・コーエン教授は3月23日付の『アトランチック』誌寄稿で「トランプ氏がティラーソン氏とマクマスター氏を更迭してポンぺオ氏とボルトン氏を指名したことで政権内に抑制役を果たすものがいなくなる」と懸念し、マクマスター氏には「回顧録の執筆によってトランプ氏の政権運営の混乱ぶりを世に知らしめ、国民を啓発する」ように提言している。外交問題評議会のマックス・ブート氏はさらに辛辣に論評している。『ワシントン・ポスト』紙3月22日付けの論説では、まず「歴史上の大統領は政権再編の際には議会や連邦政府官僚機構との共通の立場を模索してきたが、トランプ氏は摩擦を起こしがちなボルトン氏をマクマスター氏の後任に据えた」と問題提起し、ブッシュ政権期のボルトン氏については「国際条約及び国際機関の軽視をあらわにするボルトン氏の国連大使任命に対して、上院の承認が遅れた。実際に大使に就任すると、国連ではアメリカの指導力を発揮できなかった」と厳しい評価を下している。さらにボルトン補佐官の職務適正については「国家安全保障担当補佐官には外交政策や国防に関わる諸官庁の調整で対人関係の能力が求められるが、ボルトン氏はそうしたことが得意ではない。最も危険なことは核保有国となった北朝鮮への先制攻撃ばかりか、アメリカによるイラン非核化の代替案もなしに核合意からの脱退を主張していることだ」とまで述べている。そして同紙3月26日付けの論説では「国連の過剰人員とレッドテープについてはボルトン氏に同意するが、彼がEUとイスラムに対して抱く反感はナショナリストかつ権威主義的な思考様式で、共和党主流派の理想主義的な国際主義よりもトランプ氏の思想に近い」と評している。
ボルトン氏は「新世紀アメリカのプロジェクト」によるイラクのレジーム・チェンジ運動に参加はしていたものの、ウィリアム・クリストル氏は自らが主宰する『ウィークリー・スタンダード』誌による3月23日のインタビューで「彼はネオコンではなく国益重視のタカ派だ」と答えている。実のところボルトン氏は北朝鮮とイラン両国でのレジーム・チェンジを主張しているからといって「民主化の促進や人権といった普遍的な価値観にはそれほど関心は高くない」ということである。言い換えれば、ボルトン氏はアメリカの国家安全保障に重大な脅威を与える国の体制を転覆したいだけなのである。クリストル氏の分析は妥当に思われ、実際にボルトン氏はエジプトやサウジアラビアの民主化などほとんど支援していない。アブデル・エル・シシ大統領や湾岸諸国の首長の独裁政治など、アメリカの緊密な同盟国である限りは気にも留めないだろう。そうした人物であれば、ネオコン的な理想主義よりもトランプ流のアメリカ・ファーストの方が思想的に合致する。他方でクリストル氏は「ボルトン氏がトランプ氏の孤立主義に同意はせず、アメリカ外交強化のためにもNATOや日本などとの強固な同盟関係が必要だと信じている」ことに言及している。この点から、ボルトン氏がトランプ氏のロシア政策にどれだけ影響力を及ぼせるかは非常に重要である。差し迫った問題はボルトン氏が北朝鮮とイランに対して開戦に踏み切ろうというトランプ氏の本能に拍車を駆けるか抑制するかであるが、クリストル氏は「ボルトン氏は北朝鮮への先制攻撃とJCPOAの破棄を主張しているので。トランプ氏の好戦性に拍車を駆ける可能性の方が高い」と評している。クリストル氏はブート氏ほど辛辣ではないものの、タカ派のボルトン氏と短気なトランプ氏という組み合わせには、同じボルトン氏が共和党主流派の大統領だったブッシュ父子の政権にいた場合には抱かなかったような懸念を抱いている。(つづく)
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