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2018-05-28 00:00
米朝交渉、大局観が肝要だ
鍋嶋 敬三
評論家
D.トランプ米大統領が6月12日に設定した金正恩朝鮮労働党委員長との史上初の首脳会談の中止を発表(5月24日)、世界は騒然となった。最近の北朝鮮高官による対米強硬発言でトランプ氏が硬化、文在寅韓国大統領との会談(同22日)の直後に中止を宣言した。慌てた金氏は25日に文氏に2回目の南北首脳会談を申し入れ、26日の板門店会談で改めて「非核化」の意思を表明、米朝会談への「強い意欲」を明らかにした。これを受けた形でトランプ氏が直ちに予定通りのシンガポール会談への期待を示し、27日には米朝実務者協議に入るという実に目まぐるしい展開である。しかし、25年間に及ぶ北朝鮮の核問題が簡単に解決するわけではない。紆余(うよ)曲折は当然のことで、一喜一憂せずアジアの安全保障を大局的に見る構えが肝要である。
北朝鮮の強硬姿勢の背景には中国の影響があったとトランプ大統領は述べている。5月7、8日の中国・大連での習近平国家主席と金氏との第2回会談後に北朝鮮に変化が現れた。そもそも3月8日にトランプ氏が即決で受け入れを決めた首脳会談に準備のできていなかった北朝鮮は大いに戸惑ったに違いない。3月下旬には関係が悪化していた中国に初めて「駆け込み訪問」した後、わずか1ヶ月半で再訪中という異例の動きである。日米韓が突き付けている「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」の高い要求に直面して中国に助けを求めたのであろう。2回目の訪中後に「軟」から「硬」に転じた。中国の後ろ盾があれば乗り切れると過信したかもしれない。そうだとすれば誤算だ。トランプ氏はそれを許さなかった。2回目の中朝首脳会談後についてトランプ氏は「態度が少し変わった」と指摘、「それが気に入らない(I don’t like that.)」と3回も繰り返した。
米朝交渉は正に「現在進行形」で進んでいる。丁々発止の渡り合いは国際交渉では珍しくもないが、国家の最高指導者がかかわるあからさまなせめぎ合いは異例だ。交渉の核心である「非核化」の定義すら北朝鮮の言う「朝鮮半島」と米国の主張する「北朝鮮」という対象地域ですら異なる。その道筋についても、米国が「一気に」または「極めて短期間に」(トランプ氏)に対して北朝鮮は「段階的、同時並行的な措置」と見返りを前提にしており、終着駅は見えない。これまでの北朝鮮を相手にした終わりのない交渉になるのか、まずは首脳会談のスタート時点での合意が占うことになる。ことは米朝、中朝、米中、南北関係を巡る駆け引きであるが、21世紀アジアの勢力圏の行方を左右する重要な意味を持つ交渉である。
日本がこれに無関心、無関係ではあり得ない。第一に北朝鮮の核・弾道ミサイルの配備は日本の安全保障に直接かかわる軍事戦略上の危機である。第二に朝鮮半島の将来の政治体制がどうなるかは重大な問題であり、明治以来、150年間の近代日本の政治、外交に深い関わりがある。日清、日露戦争の原因とそれがもたらした結果、および第二次大戦後の南北分割と朝鮮戦争を見れば一目瞭然だ。第三に半島を巡る大国間の覇権争いがその都度戦争に結びついてきた。米朝交渉の歴史的意味もそこにある。寒心に堪えないのは、ことの重大さに対する国民的認識の希薄さである。国家、国民の安全に対する責任は行政府(内閣)だけにあるのではない。国権の最高機関である国会の責任はとてつもなく大きい。しかし、その国会は「モリ・カケ」問題に終始して国家の危機に目をつぶってきた。日本独自の影響力を発揮しようという気概も意欲もない国が発言力を持ち得ないことは1兆円以上の負担をしたが、感謝もされなかった湾岸戦争で証明済みだ。トランプ氏は早くも「韓国、中国、日本は非常に多額の資金を投じて北朝鮮を助ける意向だと信じる」(5月22日)と国名を挙げて予告している。
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