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2018-05-27 00:00
朝鮮半島を安定的な緩衝地帯へ
松井 啓
時事評論家、元外交官
昨年11月29日に北朝鮮が米国の首都ワシントンにも届く新型大陸間弾道ミサイルを発射したことで、米国は北朝鮮の非核化にようやく本腰を入れた。韓国の文大統領は米朝間の良き仲介者の役目を買って出て、平昌冬季オリンピックを始めとする種々機会を利用して米朝間の対話への道筋をつけた。また、本年4月27日には、文大統領と金委員長の「歴史的な」首脳会談が両国間の接点である板門店で開かれ、5月10日にはトランプ大統領は金委員長6月12日にシンガポールで会談すると表明するなど、一時マスコミはノーベル平和賞受賞候補者にまで祭り上げ、北朝鮮の非核化に対する期待が一気に高まった。
しかし、米国の要求する完全で検証可能かつ、不可逆的な非核化(CVID)の即時実施は、そもそも技術的観点からも短期間で実現することは無理であろう。また、金委員長としてもカダフィ大統領の最終的な殺害につながったリビア方式による非核化を恐れており、米国の要求をそのまま飲めるはずはない。自己顕示欲が強く個別取引が大好きなトランプ大統領(プロレスの司会者や不動産取引の経験あり)と、自己権威誇示と脅しが趣味(身内でも冷酷に殺害する性根あり)の金委員長の本音がぶつかり合い、両者間の不信の溝は埋まらずにいる。トランプ大統領は5月24日シンガポール会談の中止を表明し金委員長を狼狽させたが、両者は裏折衝の結果、これを復活させることを臭わせている。ボクシングでいえば前哨戦が済み、第一ラウンドがいよいよ始まろうとしている。会談する以上、それが成功であったことを喧伝したい両者間において、水面下で虚々実々の瀬踏みが行われているであろうが、時間がかかれば金委員長はその間ICBMの性能向上に励むであろうことはトランプ大統領も理解していよう。いずれにせよ、日本は既に北朝鮮の中距離ミサイルの射程内にあることは認識しておくべきである。
そもそも朝鮮半島は中国、日本、ロシア、更に米国にとって地政学上死活的に重要な位置にある。「木を見て山を見ず」ではいけない。北朝鮮の非核化は単に米朝間の問題でもなく、南北間の問題でもない。中国はこの半島を反日の「属領」として取り込みたいであろうし(金委員長は3月末と5月初めに訪中)、裏ではロシアが虎視眈々と自己の利益拡大の機会を狙っている。北朝鮮における核兵器の取り扱い、韓国の米軍及び国連軍の存在(在韓米軍の削減や撤退は日本の安全保障体制の根幹にかかわる)、南北両国の在り方(分断、連邦、吸収合併)についてこれら関係大国の合意形成なくして、朝鮮半島の現状を変更することは却って日本及びアジア全体を不安定化する恐れがある。日本にとってはこの半島が非核化し大国間の安定的な緩衝地帯となることが最重要である。日本は蚊帳の外の傍観者でいてはならない。先ず、米中露三大国の意向を探り、米韓朝中露日による六者協議(2003年第1回会合が開かれ2007年まで6回会合)を復活させ、合意形成に向け積極的役割を果たしていくべきである。
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