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2018-05-30 00:00
米朝会談へ向け動き急
杉浦 正章
政治評論家
6月12日の米朝首脳会談に向けて鼎(かなえ)が煮えたぎってきた。ニューヨーク、板門店、シンガポールの3個所で接触が進展、大詰めの協議が展開されている。焦点は北が「非核化」にどの程度応ずるかにかかっている。米朝ともあきらかに首脳会談前に重要ポイントでの合意を目指しており、一連の会談の焦点は米国で開かれることが予想される労働党副委員長の金英哲と国務長官ポンペオの会談に絞られそうだ。まさに北朝鮮の金正恩は自らの体制維持、しいては国家の命運をかけた、選択を迫られつつある。 一連の会談を通じて米国は北に対して「核兵器の国外への搬出とともに、完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)を完了すれば北の体制を保証する」との立場を伝達するものとみられる。さらに「北朝鮮のすべての核関連施設に対する国際機関による自由な査察を認め、全ての核を廃棄する」ことを要求。これに対して北は「米国が望むレベルの非核化を実現するには、米国の確実で実質的な体制の保証が必要だ」と金正恩体制の継続を要求するもようだ。また北は非核化に合わせた制裁緩和や国交の正常化などを要求しており、対立は解けていない模様だが、一方で融和の流れがあることは無視できない。金正恩の外交を補佐してきた金英哲は、おそらくニューヨークでポンペオと会談することになろう。北朝鮮の高官が米国を訪れ政府要人と会談するのは2000年に国防委員会第1副委員長趙明禄がクリントンと会談して以来のことだ。トランプが金英哲の訪米を明らかにしており、おそらく表敬訪問を受けることになるかもしれない。板門店では駐フィリピン米大使のソン・キムが外務次官崔善姫と会談して、首脳会談の議題を詰めた模様だ。
こうした中で韓国大統領文在寅は「早期終戦宣言」の構想をトランプに伝えたようだ。同構想は米朝首脳会談後に韓国、北朝鮮、米国の3国で現在「休戦」状態にある現状を「終戦宣言」に持ち込もうと言うものだ。文在寅は「米朝会談が成功すれば南北米3か国首脳の会談を通じて終戦宣言を採択すれば良い。期待している」と言明した。文にしてみれば非核化をめぐって駆け引きが激化している米朝双方を説得するためのカードとして宣言を使いたいのだろう。文在寅がこうした軟化姿勢を取る背景には26日に予告なしで行われた南北首脳会談がある。この席で金正恩は「韓半島の完全な非核化の意思を明確にして、米朝会談を通じて戦争と対立の歴史を清算したい。我が国は平和と繁栄に向けて協力するつもりだ」と述べたという。仲介役の文に対してトランプは「金正恩氏が完全な非核化を決断して実践する場合、米国は敵対関係の終息と経済協力に対する確固たる意思がある」旨伝えているようだ。
こうして米国は当面北朝鮮に対する制裁強化を見送る方針を固めた。米国はこれまでロシアや中国を含む約30の標的に対して大規模な制裁をする方針を固めていたといわれる。米当局者によれば、ホワイトハウスは当初29日にも北朝鮮に対する追加制裁を発表する予定だったが、首脳会談をめぐる協議が続く間は実施を延期することが前日になり決まった。こうした米朝和解ムードの中で米政界では慎重論が台頭している。前国家情報長官ジェイムズ・クラッパーは「北朝鮮は彼らの典型的な『二歩前進一歩後退』の行動様式を見せている。北朝鮮が考える『非核化』が太平洋での米軍戦略兵器の縮小を意味するということが心配だ」と懸念を表明した。また共和党上院議員のマルコ・ルビオは「金正恩朝鮮労働党委員長は、核兵器に病的に執着してきた。核兵器が正恩氏に今の国際的地位を与えた。これが北朝鮮の非核化を期待できない理由だ」と強調。元中央情報局(CIA)長官マイケル、ヘイデンは、「首脳会談の結果で北朝鮮のすべての核兵器をなくすことは不可能だ。トランプ氏は会談で不利益を被ることになるだろう」と見通しを述べている。さらに注目すべきは元在韓米軍司令官バーウェル・ベルは、「在韓米軍の撤収を目的に北朝鮮と平和協定を締結することは、『韓国死刑』文書に署名することと同じだ」と強く警告した。そして、「強大な北朝鮮軍兵力が非武装地帯のすぐ前にいる状況で米軍が去るなら、北朝鮮は直ちに軍事攻撃を通じて韓国を占領するだろう」と予測している。韓国大統領府は文在寅の金正恩との会談やトランプとの会談で、極東情勢が大きく前進したと判断し、和解への道筋が立った段階で米朝間の相互不可侵条約と平和条約の締結へと事態を進めたい気持ちのようだ。これが実現すれば極東情勢は大きく緊張緩和へと進展するが、北が狡猾にも世界を欺いてきた歴史は歴然としており、楽観は禁物だ。
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