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2018-06-09 00:00
シンガポール会談はプロセスの出発点
杉浦 正章
政治評論家
12日の米朝首脳会談で最優先となるのは、安全保障と引き換えに、北朝鮮の朝鮮労働党委員長金正恩に核兵器開発を放棄する用意があるという確約をとりつけることだろう。事態は戦争勃発以来70年ぶりの「朝鮮戦争の終結宣言」に向かう。拉致問題はトランプが取り上げる方向だが環境整備にとどまるだろう。安倍自身が金正恩との直接会談で話し合うしかない。トランプはシンガポール会談を、「複数の首脳会談へのプロセスの出発点」と位置づけており、解決は長期化するだろう。シンガポール会談では終戦宣言を発出することで一致するだろう。しかし、具体的には当事国が米朝に加えて中国、韓国の4か国による調印となる必要があるから、早くても秋以降となる可能性が高い。トランプも「シンガポールでは戦争終結に関する合意で署名できる」と述べている。1950年に始まった朝鮮戦争は53年に米国と北朝鮮、中国によって休戦協定が結ばれたが、平和協定が締結されていないため、現在も法的には戦争が継続状態となっている。
4月27日の韓国と北との板門店宣言では「今年中に終戦を宣言、休戦協定を平和協定に転換して恒久的で堅固な平和体制の構築に向けた南北米の3者または南北米中の四者会談を開催する」方針が確認されている。北の非核化で米国が理想とするのは南アフリカの例だ。南アは1989年のF・W・デクラーク大統領の就任後、自主的に6つの核兵器を解体。核不拡散条約(NPT)に加盟し、自国施設に国際原子力機関(IAEA)の査察団を受け入れた。北朝鮮の場合には、兵器や技術が隠されている可能性があり、北が申告した施設だけでなく大々的な査察が必要になる。ただ金正恩は「段階的かつ同時的」アプローチを呼び掛けており、そこに北のトリックがあるという見方もある。北朝鮮が核兵器放棄を正直に進めるのか、可能な限り非核化を先延ばしする“策略”なのかは分からないからだ。過去の例から見れば信用出来ない最たるものなのだ。
トランプは秋の米中間選挙に北朝鮮問題を結びつけようとしていることが歴然としており、そのための象徴となるのが「朝鮮戦争の終結宣言」となることは間違いない。まさにこれといった成果のないトランプにとって、北朝鮮問題はアピールするにうってつけの材料だが、事実上終結している戦争終結を改めて宣言しても、米国のマスコミが成果として認めるか疑問だ。日本にとって核問題と並んで重要なのは拉致問題だが、トランプと金正恩との会談での優先順位はどうしても非核化に置かれるだろう。おそらく金正恩もそれを見抜いており、従来の「解決済み」との方針から離脱するのは難しいかも知れない。4月29日に韓国大統領文在寅は安倍に電話で「金正恩委員長は日本と対話の用意がある」と伝えてきたが、北との融和の過程としての日朝首脳会談は極めて重要なものとなることは確かだ。なぜならトランプがたとえ拉致問題を取り上げても、それは「交渉」にはなりにくいからだ。交渉はあくまで日朝間で行うことになる。トランプは「拉致問題が解決すれば日朝関係が劇的に変わる」と述べているが、これは3人の米国人の解放と米国の変化を重ね合わせたものだろう。安倍もその辺は認識しており、「最終的には金正恩委員長との間で解決しなければならないと決意している」と述べている。
一方経済問題が密接な関わり合いを持つが、国務長官ポンペオは、「経済支援は北朝鮮が真の行動と変化を起こすまであり得ない。日本による経済支援も同じだ」と述べており、一挙に経済支援に結びつける方針は示していない。安倍も「国交正常化の上で経済協力を行う用意がある」とクギを刺している。しかし、最終的には日本の経済支援を、北朝鮮ばかりか米国も当てにしていることは間違いないことだ。総書記金正日が日本人拉致を認めた2002年には、首相小泉純一郎が、北朝鮮に100億ドルを支払う構想があったが、実現していない。気をつけなければならないのは北による“やらずぶったくり” であろう。
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