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2018-06-13 00:00
大山鳴動ネズミ一匹の米朝未完会談
杉浦 正章
政治評論家
トランプは口癖の「素晴らしい」を繰り返すが、どこが素晴らしいのか。会談したこと自体が素晴らしいのか。それにしては、「北の壁」ばかりが目立つた未完の会談であった。金正恩は米朝共同声明で「完全な非核化」を約束したが、具体的な非核化の範囲や工程や期限への言及はなかった。これでは、歴代北朝鮮トップによる「約束反故の歴史」を誰もが思い起こさざるをえないだろう。トランプは会談の“成果”に胸を張るが、その内容は会談したこと自体に意義がある程度にとどまりそうだ。要するに北朝鮮の核兵器廃棄への工程はほとんど示されず、非核化のタイミングや検証方法は今後の交渉に委ねられることになった。会談を受けてトランプは北朝鮮への経済的支援については、「米国が支出すべきだとは思わない」と主張し、「遠く離れている米国ではなく、日本や中国、韓国が助けるだろう」と、経済援助をたらい回ししたい口ぶりだが、会談結果から見る限り日本はおいそれと「経済カード」を切れる状態でもあるまい。
まず米朝合意文書に書かれた文言は、4月に開催された韓国と北朝鮮の南北首脳会談で署名された内容をコピーしたかのようであり、北朝鮮による核・ミサイル実験の凍結に関しても明文化されなかった。米国が6カ国協議を通じて主張してきた非核化の原則である「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の文言がない。休戦から65年にわたる敵対関係と20年あまりにわたる核武装路線に終わりを告げる文言が、合意に至らなかったことを意味する。北が核武装を放棄する意思がないことを物語っている。トランプはCVIDが合意に至らなかったことを記者団から突っ込まれて「時間がなかった」と弁明したが、焦点の問題を時間のせいにするのはおかしい。合意文書は「朝鮮半島の完全な非核化」と表現しただけで、北朝鮮の非核化をいかにしていつまでに成し遂げるのかという、首脳会談最大のテーマは、盛り込まれなかった。非核化の時期と検証方法も不明のままだ。検証可能と不可逆的という言葉なしに、北の核武装に歯止めをかけようとしても無理がある。さらにトランプの主張の核心であった「朝鮮戦争終結」の宣言も合意文書にはない。朝鮮戦争で米朝が戦火を交えて以来のトップ会談であり、宣言には事実上終結している戦争を再確認する意味合いがあるが、盛り込まれなかった。さらに北朝鮮による核・ミサイル実験の中止の明文化もなかった。核・ミサイル実験場の閉鎖にも言及していない。多くの課題が、先送りされ、具体性に欠けた会談であったことを物語る。要するに大山鳴動してネズミ一匹の感が濃厚なのである。トランプにしてみれば秋の中間選挙へのプラス効果が出れば良いのだ。
一方金正恩は、会談から多くのポイントを稼いだ。合意文書では金正恩体制をトランプはギャランティーという表現で保証した。特異な社会主義体制を敷く金王朝を、自由主義の雄であるはずの米国が体制保証するという奇妙な会談となった。今後金正恩が体制の正当性を世界に喧伝し、国際的な孤立から離脱する材料に使うことは言うまでもない。加えて米韓軍事演習の見直しや在韓米軍の削減にトランプが言及したことは、金正恩にとって大きな成果であった。しかし、ことは極東の安全保障に関する問題である。重要な同盟国である日本にろくろく相談もなく、安全保障に関する問題を軽々に発言するトランプのセンスを疑う。拉致被害者の問題については、首相安倍晋三の要望に応じて、トランプが金正恩との会談で言及したが、単なる言及にとどまったようである。もともと拉致問題は日本政府が解決すべき問題であり、安倍が「日本の責任であり、日朝間で交渉する」と述べている通りである。
日本外交の真価が問われるのはこれからであるが、かくなる上は北との関係正常化を推し進め将来的には、国交正常化を視野に入れるべきであろう。正常化して、経済的な結びつきを強めることにより、北の暴発は抑えられる可能性が高い。拉致、核、ミサイルが国交正常化の前提条件だが、棒を飲んだような姿勢でなく、緩急自在の姿勢で日朝首脳会談の開催を視野に入れるべき時だろう。トランプはまた、国務長官マイク・ポンペオと大統領補佐官ジョン・ボルトンが来週、合意の「詳細を検討する」ため北朝鮮当局者と協議する予定だと述べている。またトランプ自身も「また会う、何度もだ」と延べ、金正恩をホワイトハウスに招待する意向も示した。「恐らく再度の首脳会談が必要になる」と語った。トランプ自身も会談の不十分さに気付いているのかも知れない。
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