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2018-06-19 00:00
「米朝共同声明」では北朝鮮の核を廃絶できない
加藤 成一
元弁護士
米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩労働党委員長は6月12日シンガポールで史上初の米朝首脳会談を行い、共同声明に署名した。共同声明の骨子は、(1)金正恩委員長は朝鮮半島の完全非核化を約束(2)トランプ大統領は北朝鮮の安全を確約(3)米朝は朝鮮半島で持続的な平和体制を築くため努力(4)長年にわたる緊張状態や敵対関係を克服(5)米朝高官による交渉継続(6)戦没米兵の遺骨収集に協力、となっている。しかし、米国政府が求めた「完全且つ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の合意はされなかった。これは今後の「非核化」交渉のうえで重大な障害になるであろう。
上記の合意がされなかった理由は、北朝鮮にはもともと「非核化」の意思が全くないからである。すなわち、北朝鮮は「水爆実験」を含む6回に及ぶ核実験と米国を射程に収める長距離弾道ミサイルを含む多数回にわたるミサイル発射実験により、核・ミサイル開発技術をほぼ完成し、現に核爆弾と中・長距離弾道ミサイルを保有する「核保有国」である。したがって、北朝鮮にとっては今回の米朝首脳会談は核保有国同士の「対等」の交渉であるから、「米朝共同声明」のいう「朝鮮半島の完全非核化」とは、米国との首脳会談を実現し米国からの軍事的攻撃を免れるための方便としての単なる「スローガン」に過ぎず、「核保有国」の地位を放棄するものではあり得ない。その証拠に、翌日の朝鮮中央通信などは、非核化は「段階別、同時行動の原則との認識で一致した」と報道している。「段階別、同時行動の原則」とは、言い換えれば「非核化」を最大限引き延ばして、結局実行しないということであり、「非核化」を拒絶する絶好の口実になる。
このように、もともと北朝鮮には「非核化」の意思が全くないから、今後北朝鮮がすべての核関連施設の申告、開示、破壊、検証や保有するすべての核爆弾、中・長距離弾道ミサイル等の申告、開示、破壊、検証、並びにこれらを担保するIAEA(国際原子力機関)による全面的査察を受け入れることは到底あり得ない。今回の「米朝共同声明」においても「検証可能」の合意も「不可逆的」の合意も一切されていない。今回の米朝首脳会談の結果、北朝鮮は「体制の保証」を得て当面米国からの軍事的攻撃を免れることに成功した。今後は当分の間、核実験やミサイル発射実験を自制するであろうが、「核保有国」としての地位は揺るがず、自国の経済発展に専念できる時間的余裕を手にした。今後「非核化」を実行しない北朝鮮によって、早晩トランプ大統領による今回の米朝首脳会談の「失敗」が明らかになるであろう。その場合は米国による軍事的選択肢しか残されていないが、韓国や中国はこれを阻止するであろう。
日本政府としては、今回の米朝首脳会談の結果について、米国と引き続き緊密に連携し、北朝鮮に対し「非核化」の実行と「拉致問題」の解決を迫っていくべきであるが、それと同時に、依然として「核保有国」の北朝鮮のみならず、急速な軍拡を続ける核保有国の中国をも見据えた中長期的視点からも、防衛費の増額など日本の安全保障体制の一層の強化を怠ってはならない。
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