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2018-07-25 00:00
日欧、リベラルな国際秩序を主導
鍋嶋 敬三
評論家
日本と欧州連合(EU)は7月17日、世界最大規模の経済連携協定(EPA)に署名した。世界の国内総生産(GDP)の約4割、貿易量の約3割を占める先進国経済による巨大な自由貿易圏が誕生する。アジア太平洋地域の環太平洋経済連携協定(TPP11)も3月に署名、メキシコ、日本に続きシンガポールも国内手続を完了した。二つとも2019年早期の発効を目指す。「米国第一主義」のD.トランプ米政権が保護主義政策を強行している中での合意で、自由貿易体制の崩壊に対する「防波堤」としての役割に大きな期待がかかる。安倍晋三首相はD.トゥスク大統領らEU首脳との共同会見で「自由貿易の旗手として世界をリードしていく政治的意志を示すもの」と強調した。
自由貿易推進という目的のほかに日欧合意のもうひとつの大きな意義は、第二次世界大戦後に米欧が主導してきたリベラルな国際秩序を守るという政治的な側面である。EPAとともに、42分野に及ぶ包括的な政治協力をまとめた戦略的パートナーシップ協定(SPA)も結んだ。日本とEUは自由主義、民主主義、人権、法の支配など普遍的価値を共有している。署名式に来日したJ.C.ユンケル欧州委員長は「貿易とは、関税や障壁以上のものである。価値観、信条(values, principles)が重要である」と語った。「逆トランプ効果」と言うべきか。保護主義への危機感からアジア太平洋と欧州の間で日本を軸として自由貿易の機運が高まり、困難を極めた交渉が高いハードルを乗り越えて協定署名から発効へと加速している。
日本外交にとっては日米同盟関係を基軸としつつも、その翼を広げる好機になっている。戦後の日本外交は第一に、戦後処理から始まったアジアが出発点だ。賠償から政府開発援助(ODA)へと東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心に経済発展に寄与してきた。良好な関係のおかげで国連安全保障理事会の非常任理事国の選挙ではアジア枠を他国から譲り受けたことも再三だった。この十年間の中国による南シナ海、東シナ海への攻撃的な進出を目の当たりにして、安倍首相が主導してきたインド太平洋戦略の重要性にインドやフランスも注目するようになった。第二に、日本の対米一辺倒からの脱却がトランプ政権の「米国第一主義」の逆説として浮上する。日米安保同盟が日本外交の基軸であることに変わりはない。特に、中国や北朝鮮、さらにはロシアの軍事的圧力が強まる中では、その重要性は言うまでもない。しかし、米国の「利益第一」のトランプ・ドクトリンは日本側の「日米第一主義」を打ち壊すには十分であった。
米国の単独行動主義(ユニラテラリズム)はトランプ大統領に限らず、歴史上しばしば現れる。しかし、国際協調よりも「自国第一」が行動原理になる場合、条約に基づいた同盟関係すらないがしろにされる危険は否定できない。トランプ政権下で「同盟のデカプリング(引き離し)」がしばしば論ぜられるのはこのためだ。最近の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でトランプ大統領が対ロシア戦略上最も重要な位置を占めるドイツをあしざまに攻撃したのは好例である。第三に、そこで日本の選択肢として改めて登場するのが欧州である。150年前の明治維新後、急速に西欧の文化、文明を吸収することで近代国家として日本は急激に発展を遂げることができた。政治、経済、法、教育など社会の根幹となる制度設計において自由、民主主義、人権、法の支配など西欧近代社会の基礎をなす原理が日本に根付いたのだった。ユンケル委員長が指摘した「価値観や信条」の重要性は日欧関係の本質を突いたものである。
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