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2007-06-07 00:00
IWC(国際捕鯨委員会)脱退など愚の骨頂
吉田康彦
大阪経済法科大学客員教授
5月末、アラスカのアンカレッジで開催されたIWC(国際捕鯨委員会)総会は、日本沿岸の捕鯨を認めるよう求めた日本提案を否決し、商業捕鯨の禁止を再確認する決議案を採択して閉幕した。IWCが認めたのはイヌイットなど極地の先住民の生存のための捕獲だけで、捕鯨の全面禁止に向かう国際世論の潮流は変わらなかった。
これに対し、日本代表団は「IWCはクジラ資源管理の機能を果たしていない。もう我慢の限界だ」として脱退を示唆、捕鯨賛成国による新機関設立の可能性を表明した。しかし、この発言は代表団の主力である水産庁の見解で、外務省は消極的なようだ。当然である。水産庁の役人は昔から単細胞の国粋主義者で国際感覚が乏しい。「クジラは日本の伝統的食文化であり、これを禁止する国際社会の動向は欧米人の価値観の押しつけである」とする安直で単純な論理で、IWC脱退に同調すべきではない。日本としては、あくまでもIWCにとどまり、捕鯨禁止の国際世論の変化をうながす努力を継続すべきだ。
日本政府も、捕鯨業界も、国際社会に向けての情報発信能力と世論工作が不得手で、苦手である。広告代理店を使って海外PRを試みたものの奏効せず、代わりに国内メディアの論説委員やオピニオン・リーダーを懐柔してナショナリズムをくすぐり、国内世論を味方につけるのに成功したという過去の“実績”がある。それゆえ捕鯨問題をめぐる新聞・テレビ報道は水産庁に同情的な傾向がある。しかし世界は捕鯨全面禁止に動いているのだから、国内世論だけ煽ってみても仕方ない。それなら大金をはたいて米国の広告代理店を使ってみるのも一案だ。旧ユーゴ民族紛争の際、ボスニアの少数派がニューヨークの広告代理店ルーダー・フィン社の巧みな情報操作と宣伝のおかげで、セルビアを悪者にして、民族浄化の元凶だとする烙印を貼るのに成功した前例がある。国際関係も情報操作に左右される。米国は政府も民間もシロをクロと言い含めることを平気でやってのける。
もし、それでも捕鯨禁止の国際世論を覆すことができなければ、いさぎよく諦め、日本人もクジラを食する慣行を止めるべきであろう。日本人にとってクジラは伝統的食文化ではない。クジラを食べなくても何ら支障はない。最近の統計によると、日本人の年間鯨肉消費量は30-40グラムで、これはマグロの刺身二切れ分でしかないという。日本代表団がIWC総会で伝統的捕鯨基地として挙げ、「沿岸捕鯨」を認めるよう主張した網走、鮎川、和田、太地の4地域に対しては、個別の補償をすれば済むことだ。地元住民も捕鯨なしに生きていけないわけではない。日本がIWCを脱退すれば火に油を注ぐことになる。ヒステリックに捕鯨禁止を叫ぶ欧米諸国の世論に火をつけ、日本商品ボイコット、さらに日本の国連安保理常任理事国入り反対運動などに発展しかねない。一にぎりの捕鯨業界と水産庁の利害のために国益を損なうほど愚かなことはない。
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