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2018-07-31 00:00
西欧の価値観を破壊する中国マネーについて
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
中国は、その強大な経済力で、世界の多くの途上国や先進国に豊かさをもたらしているが、その一方で、「自由」「平等」「人権」「隣人愛」など、西欧文明の基礎となっている価値観を破壊しつつあるように見える。中国新疆自治区に暮らす推定人口1000万とされる少数民族ウイグル族が、漢民族との同化をめざす中国共産党の指導の下で、大量虐殺、強姦、強制収容など過酷な弾圧に遭っていることが一部海外メディアで報道されているが、中国の沈黙により、その正確な実態は明らかとなっていない。ウイグル人は、イスラムの習慣に従って断食するなど些細な理由で拘束され、「再教育キャンプ」に収容されるといわれている。米政府系短波ラジオ放送ラジオ・フリー・アジア(RFA)の推計では、過去2年間で最大100万人が再教育キャンプ送りとなり、二度と戻ってこない人も少なくないといわれている。ある米議員グループは、これを「少数民族を対象とする最大規模の拘束」だと表現している。
2017年、EUは中国の人権状況を批判する声明を国連人権委員会でとりまとめようとしたが、ギリシャの外相が「声明は非建設的な中国批判」と述べ反対したため不成立に終わった。中国は、ギリシャ、ハンガリー、クロアチア、ポルトガルなど、経済状況の厳しい欧州諸国に多額のインフラ投資をしている。トルコは、民族的に深いつながりを持つウイグル族に対して同情的で、これまでに数多くの亡命ウイグル人を受け入れてきた。2015年7月には、トルコの首都アンカラやイスタンブールで、「ウイグル人を迫害する中国政府」への大規模抗議行動が発生した。このときはタイ領事館も襲撃を受けたが、それは、中国新疆ウイグル自治区からトルコを目指して脱出し、タイに一時入国したウイグル人約100人を、タイ政府が中国に強制送還したことへの抗議だった。
ところが、2017年8月3日、そんなトルコの態度が急変した。その日北京を訪れていたトルコのチャブシオール外相は、中国の王毅外相との会談後の記者会見で、「今後はトルコ国内の反中国勢力を取り除く」「トルコ領内で、中国に敵対または抵抗することを目的としたいかなる活動も今後は一切認めない」と述べ、ウイグル族に対する支援を行わない方針を明らかにした。その背景に、中国からの巨額の貿易と投資の申し出があったことは言うまでもない。話はさかのぼるが、2010年にノーベル平和賞が、中国の人権運動活動家で、投獄を繰り返し、授賞当時も獄中にあった劉暁波氏に贈られた。これはノーベル賞史上最初の中国在住中国人への授賞で、かつ獄中にある人物に授与した最初の例だった。これに対し、中国政府は「内政干渉は許さない、ノーベル平和賞は西側の利益の政治的な道具である」と強く反発し、ノルウェーからのサーモン輸入を事実上差し止めた。2016年4月、ノルウェーのソルベルグ首相が外務大臣と貿易産業大臣を伴って中国を訪問して習近平国家主席に面会、「今後、中国の核となる問題については批判しない」という声明に署名して、ようやく経済制裁が解かれた。
最後にバチカンについて触れたい。カトリックの総本山であるローマ法王庁(バチカン)は、1971年以来中国と断交しているが、現在関係修復に向けて交渉中との報道がある。2013年に就任したフランシスコ法王は中国との関係修復に意欲的で、2014年に中国が敵視するチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がローマを訪問した際には面会を拒絶した。年内といわれている国交回復の前提として、中国はバチカンに対し「台湾との断交」を必ず要求するだろう。バチカンがそれに応じたとき、フランシスコ法王は、世界中のカトリック教徒に対してどう説明するのだろう。
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