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2018-08-08 00:00
米の東南アジア外交巻き返しなるか?
鍋嶋 敬三
評論家
米国のD.トランプ政権が東南アジア外交の巻き返しに本腰を入れ始めた。東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議を軸とする各種会議でM.ポンペイオ国務長官が8月初め、インド太平洋戦略のため安全保障、経済での具体的な関与策を提示した。(1)インド太平洋の海洋を中心とする地域安全保障協力のため約3億ドル、(2)デジタル経済、エネルギー、インフラ整備の3分野に1億1300万ドルの支援、(3)開発金融に600億ドル規模の法案(下院を通過)などが柱だ。アジアは北朝鮮による核・ミサイル開発、中国の海洋の軍事的脅威の高まりに直面する。米国が軍事的、経済的にこの地域を守るかどうかが、アジアの勢力バランスの方向を支配する。
トランプ政権のアジア戦略の基本は「自由で開かれた海洋は米国のインド太平洋戦略の礎石であり、国家安全保障戦略にとって不可欠」(国務省文書)というものだ。ASEANを中心にしながらも中国や北朝鮮も入るASEAN地域フォーラム(ARF)の議長声明には「包括的で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」の表現が入らず、制裁緩和を働き掛ける北朝鮮や支援する中露などの影響がうかがわれる。ポンペオ長官はASEANとの会議で南シナ海における中国の軍事化への懸念を提起し、北朝鮮の核・ミサイルの問題とともに安全保障上の重要な問題の中心にASEAN がいることを強調して協力を訴えた。中国の「一帯一路」構想が進む中、ASEAN抜きでは米国のインド太平洋戦略も成り立たないとの危機感が強まったからでもある。
「包括的な米国の東南アジア戦略」と題する大論文(8月7日公表)が注目される。著者のAEI研究所M. マッザ客員研究員は米国が目指す東南アジアの姿は「近隣諸国と友好関係を保ち、自由経済市場を受け入れる民主的な責任ある政府」という。中国型の共産主義開発独裁、強権的な人権弾圧の長期政権が目立つこの地域では理想主義的すぎるかもしれない。同氏は米国はこの目標達成のために安全保障、経済、政治的統治の3本柱からなる戦略を提唱、これに成功すれば米国に有利な勢力図が確実になり、リベラルな国際秩序も強化されると結論付けている。同氏は「太平洋戦争の教訓」を取り上げた。1942年2月の日本軍によるシンガポール陥落以降の東南アジアにおける日本軍の圧勝は欧米植民地主義の終わりを告げ、「この画期的変化の結果は今日に至るまで明白」と評価している。60年後、中国が南シナ海の支配に乗り出している。東南アジア地域を無視すれば地域の勢力バランスを中国有利にひっくり返すことにもつながると同氏は分析。東南アジアの出来事は世界的な影響をもたらし「米国がそれを無視するなら、ただでは済まない」と結んでいる。
第二次大戦後も米国の戦略的後退が二つ続いた。ベトナム戦争で南ベトナムを失った(1975年)こと、フィリピンの大規模空軍・海軍基地からの撤退(1991-92年)である。いずれも南シナ海の海上交通路(シーレーン)を押さえる重要な地域であり、その米国の後退の穴を埋めたのが中国である。南シナ海の島嶼を次々と実効支配して軍事基地化したことは衆知の通りである。トランプ政権の「自由で開かれたインド太平洋戦略」も、自国利益第一主義の通商政策を強引に進めるなら、米国に経済的に依存するアジア諸国の失望を招いて画餅に帰すだろう。日本はアジア随一の同盟国として「米国第一主義」を改め、アジア太平洋諸国も多く参加する環太平洋連携協定(TPP)の国際協調主義への復帰を粘り強く説得する必要がある。それがトランプ氏との個人的な信頼関係を自負する安倍晋三首相が果たせる貴重な役割に違いない。
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