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2018-08-23 00:00
悩み深い日銀総裁の金融政策の修正
中村 仁
元全国紙記者
今後の金融政策のあり方を決めた日銀の会合の結論は、「金融緩和は長期戦」(日経社説)、「金融緩和の持続性を重視」(読売社説)という面と、「金融政策の失敗は明らか」(毎日新聞)、「金融政策の不透明さ増す」(朝日新聞)という面と、評価は様々です。「長期戦」、「持続性」の裏返せば、「金融政策の失敗」があり、今後はとなると、「何をどこまでできるか」となります。米国が金利高に向かい、欧州も政策転換を模索し、日本だけがとり残されるのはまずいという気持ちなのでしょう。何かすることで、異次元緩和からの脱出を模索したいのでしょう。財政と金融が一体化してしまい、株高も異次元緩和と一体になってしまい、大胆な修正は難しい。異次元緩和から脱出し終えるには、2、30年、あるいは3、40年、気の遠くなるような年数がかかるという説も聞かれます。
思い出すのは、日銀ウォツチャーの加藤出氏(短資会社)が書いた「日銀に出口なし。異次元緩和の次に来る危機」(14年)という著書です。冒頭に1970年代のヒット曲「ホテルカリフォルニア」(イーグルス)を取り上げながら、黒田総裁の冒険への批判、危機感が強調されています。この宿に泊まった男(つまり黒田日銀総裁)は「ここは天国か地獄か」と自問します。つまり異次元緩和でデフレ脱却に大成功を収めて天国に昇るのか、洪水のようなマネーに翻弄されて地獄に落ちるのか。宿の人が言います。「我々はここのとらわれ人。あなたは二度とここから離れられない」と。加藤氏は「終わるに終われなくなる状況を、ホテルカリフォルニア化と例えることができる」というような要約をします。米ダラス連銀の総裁も「我々はホテルカリフォルニア的金融政策のリスクに頻している」(2012年2月)、つまり異次元緩和に踏み込んでしまうと、「抜け出すことはできなくなる」。大洪水のような金融緩和に踏み込んでしまうと、景気や株価が実態以上に押し上げられ、水を抜こう(金融引き締め)とすると、景気や株価に不測の影響が生じる。砂上の楼閣ですからね。金融政策の方向転換を図ろうとしている米国では、トランプ大統領が不満をもらし、連銀をけん制しています。
大胆な金融緩和は緊急避難に限るべきなのです。マネタリズム(貨幣数量説)に基づき、金融政策で物価を押し上げ、デフレから脱却できると信じ込み、迷路にはまり込んだのが日本の現状です。デフレ脱却(消費者物価2%アップの実現)は2年の目標が次々に先延ばしされ、5年経っても、1%程度の上昇です。つまり失敗です。就任早々に世間を驚かせた黒田氏の心中は、失敗を認めたくありません。今回の金融政策会合で、珍しく記者団が総裁を追及しました。「これまでの金融政策は間違いだったと思うか」。「全く思っていない。現在の大幅な金融緩和を粘り強く続けていく」。「白川前総裁のスタンス(金融政策の限界を認識)に近づいていないか」。「全くそのように考えていない。2%達成の実現時期が後ずれする中で金融政策の枠組みを強化する」。失敗を否定するふりをして、失敗を認めている。もっとも黒田総裁に「誤りを認めよ」と、迫っても無理でしょう。安倍首相は予算員会(13年2月)で「新たに任命する総裁については、私と同じ考え方を有し、デフレ脱却に強い意思と能力を持った方にお願いしたい」と、明言しています。日銀には政府からの独立性が必要であり、その程度の認識を持っているべき首相がこうまで断言したのは、初めてでしょう。
黒田氏が誤りを認めることは、アベノミクスの失敗を認めることにつながります。ですから黒田氏は退路が断たれているのです。安倍首相との関係から失敗を否定しても、異次元金融緩和が当初の予想に反する結果を生んでいることを、黒田氏は承知しているはずです。「消費者物価は上がらなくても、株価は上がり、資産保有者(富裕層)は喜んでいる」、「物価が上がらなくて高齢者は助かっている」、「円安が急激に進み、大企業は好決算、税収も増えた」、「日銀が国債を大量に購入しているので、財政資金の手当てには全く困らず、政府は大喜び」などなど。総裁はどこまで予想していましたか。喜んではいけないのは、大量の国債をどう整理するかに苦悶することになる将来の日銀総裁、膨張する国債を償還する財源としての税金を払うことになる次世代の人たち、資産格差の拡大で社会的不公平を押し付けられている人たち、などなど。黒田氏は会見で「政策金利のフォワードガイダンス(将来の指針)」という表現を使いました。政策当局の考え方を市場に徹底し、波乱が起きないようにとの思いからでしょう。考えてみれば、政策当局の意図を推し量り、市場が動くというのは、市場経済ではありません。これでは中国などの国家主導型経済を批判できません。黒田さんは市場経済を破壊したといえるのではないでしょうか。
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