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2018-08-24 00:00
中国の脅威、日米安保に一石
鍋嶋 敬三
評論家
米国防総省が8月16日公表した中国の軍事力に関する議会への2018年次報告書(以下「報告」)はトランプ政権による国家安全保障戦略(NSS)、国防戦略(NDS)などに続くもので、中国によるアジア太平洋地域への軍事進出に新たな強い警戒感を浮き彫りにした。中国とロシアを「現状変更勢力」と規定するトランプ政権はNSSで「中国はアジア太平洋地域で米国に取って代わろうとしている」との見方を示した。本稿では「報告」の中で特に日本の安全保障に密接な3点を取り上げる。(1)海軍陸戦隊(海兵隊)の3倍増、(2)中国公船と海上民兵、(3)渡洋爆撃能力の向上である。
2017年における中国海軍の「最も顕著な構造的変化」として「報告」は海兵隊の拡充を挙げた。2個旅団1万人規模を2020年までに7個旅団3万人へと3倍増される。使命も上陸作戦と南シナ海の拠点防衛から海外への遠征計画に拡大した。既に北東アフリカのジブチに初の海外基地を設けた。海兵隊に1航空旅団を組み込み、輸送と攻撃能力を強化し「水陸両用作戦と海外派遣作戦の能力を高める」狙いが明確である。中国の最大の目標である台湾の武力制圧のためには隣接する沖縄県の尖閣諸島など南西諸島への軍事圧力は欠かせない。中国海兵の拡充は尖閣上陸作戦が想定されていると考えなければならない。第二に、尖閣への領海侵犯を常態化させている中国海警(コーストガード)は世界最大規模を誇る。これまでの国務院(内閣)指揮下から2018年初頭、中央軍事委員会-武装警察部隊の指揮下に入ったとされる。1000トン以上の大型船が60隻から130隻に倍増、1万トン級も配備され、30mmから76mm機関砲を装備する軍艦並の戦力もある。
独特なのが海上民兵(Maritime Militia)で、役割は「世界で唯一の政府公認で、政治目的遂行のため戦闘することなく強制的な活動に従事する」こととされる(「報告」)。南シナ海だけでなく2016年8月、尖閣諸島周辺に最大15隻の海警の公船とともに200~300隻の漁船が押し寄せた事件では「民兵が大きな役割を果たした」(「報告」)。尖閣の真の危機は平時でも戦時でもない「グレーゾーン事態」である。防衛白書(2017年版)では「武力攻撃に当たらない範囲で現状の変更を試み、また変更する行為」と規定している。漁民に偽装した海上民兵はグレーゾーン事態で「主役」になるもので、大いなる警戒が必要である。尖閣諸島の防衛について、米報告は「米国は尖閣諸島の主権に関していかなる立場も取らない。しかし、同諸島における日本の統治(administration)を(事実として)認めている。それ故に、日米安全保障条約第5条が同諸島に適用されるとの立場を守っている」。第5条の適用で米軍が出動するのは、日本による実効支配が前提であることを肝に銘じておく必要がある。
第三は、渡洋爆撃能力である。長距離爆撃機H-6Kは核弾頭搭載可能な巡航ミサイル(DH-10)を装備可能で、中国本土から3300km離れた米領グアム島基地が射程内に入る。2015年には第一列島線を越えて西太平洋に進出、宮古海峡からバシー海峡を通り、グアムへの射程内を飛行した。米報告は「米国と同盟国の基地攻撃能力の完成を示す」ものと認めた。トランプ政権は8月9日に中国やロシアの脅威に対して2020年までに第6の軍種である「宇宙軍」の創設を指示した。ペンス副大統領は中国などの敵対国は「宇宙を戦闘領域に変えてしまった」と批判した。米国の対中批判は貿易摩擦とともに強硬になり、軍事的、経済的な警戒心はこれまでになく高まっている。日本は中国やロシアの動向を的確に捉えて日米防衛協力を強く推進しつつ、長期のアジア戦略を構築したうえで、年末に予定される次期の防衛計画大綱や中期防衛力整備計画の策定にあたるべきである。中露の軍事力や北朝鮮の核・ミサイルに対して日本単独では守れないが、日本独自の視点に立つ日米同盟関係を再定義する提案の時を迎えているのではないか。
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