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2018-08-27 00:00
石破立候補は“消化試合”か
杉浦 正章
政治評論家
「我が胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山」ー首相・安倍晋三の桜島を背景にした出馬表明を聞いて、筑前(現在の福岡県)の勤王志士・平野国臣が詠んだの短歌を思い起こした。安倍が意図したかどうかは別として、薩長同盟が明治維新という歴史の舞台を回転させたことを意識するかのように、激動期の難関に立ち向かう政治姿勢を鮮明にさせたのだ。日々水銀柱の高止まりに連動するかのように安倍批判を繰り返している石破茂に対して頂門の一針を打ち込んだ形でもある。今後9月20日の総裁選に向けてボルテージは高まる一方となった。安倍の26日の演説は、総じて「格調」を重視したかのようであった。堰を切ったように「まさに日本は大きな歴史の転換点を迎える。今こそ日本のあすを切り開く時だ。平成のその先の時代に向けて、新たな国造りを進めていく。その先頭に立つ決意だ」と3選への決意を鮮明にさせた。その背景には自民党国会議員の大勢と、地方票の多くが安倍に向かうとの自信があるようだ。
既に固まっている議員票は自派の細田派(94)を筆頭に麻生派(59)、岸田派(48)二階派(44)衆院竹下派(34)をほぼ確保。さらに73人いる無派閥へと浸食しつつある。今回は議員票405票、地方票405票合計810票の争奪戦だ。前回12年の総裁選では石破に地方票で大差を付けられたことから、安倍は夏休み返上で地方行脚を続けている。しかし地方票が前回のような石破支持に回るかと言えば、そうではあるまい。地方票は議員票に連動する傾向が強いからだ。前回石破に地方票が流れたのは安倍が首相になる前であったからだ。現職の総理総裁は、油断しなければ地方票の出方を大きく左右させるだろう。総裁選後足を引っ張られないためにも最低でも半分以上は取る必要がある。これに対して石破は自派20と反安倍に動く元参院議員会長・青木幹雄の支援を得て参院竹下派の大勢の支持を得つつある。しかし、議員票は不満分子を含めてもせいぜい50票弱を獲得する方向にとどまるものとみられる。石破は愛知県での講演で「自由闊達(かったつ)に議論する自民党を取り戻さなければいけない」と首相の党運営を批判した。
この石破の置かれた立場を分析すれば将来的な展望がなかなか開けないことに尽きる。なぜならポスト安倍の本命は岸田と受け止めるのが党内常識であるからだ。岸田が今回の総裁選に立候補しなかったのは3年待てば安倍支持グループの支持を得られるという計算がある。従って今後安倍が3年、岸田が2期6年やった場合、10年近く石破政権は実現しないことになる。立ちはだかる「岸田の壁」は今後ことあるごとに石破を悩ますだろう。石破派幹部は佐藤3選阻止に立候補した三木武夫が、田中角栄の後政権についた例を指摘するが、田中の場合はロッキード疑惑に巻き込まれて短期政権にとどまったのであり、慎重な岸田が高転びに転ぶ可能性は少ない。
石破は憲法改正でも安倍と異なる路線を歩んでいる。焦点の憲法9条改正で、戦力不保持を定義した2項の扱いをめぐって対立が先鋭化しているのだ。石破は9条改正で2項の削除を主張しているのに対して安倍は2項を維持した上で自衛隊の合憲を明確化させる方針だ。「憲法改正に取り組むべきときを迎えている」とする安倍は、年内に自民党の改憲案をまとめ、来年の通常国会で発議する図式を描いていると言われる。夏の参院選挙に合わせた国民投票構想があるが、まだ流動性がある。いずれにしても、今回の総裁選は野球で優勝チームが確定してから行う“消化試合”のような色彩が濃厚である。なぜなら例えば石破が地方票の半分を確保しても安倍が810票の過半数を確保する流れに変化は生じないからだ。石破が得をしていることと言えば、軽佻(けいちょう)浮薄な民放テレビ番組が、まともな対立候補として取り上げ、面白おかしくはやし立てることしかない。世論調査で石破支持が安倍を上回るケースがある理由は、民放番組にある。安倍陣営は気にする必要はない。石破はなんとかしてテレビ討論を実現したいようだが、軽々に応ずる必要はない。石破を実体以上に大きく見せてしまう。やるなら両者が日本記者クラブと会見して、それをテレビが中継すれば良い。
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