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2018-08-28 00:00
日本外交はどうあるべきか
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
ある雑誌の企画で、松川るい参議院議員と対談する機会があった。自民党総裁選の話から、朝鮮半島の話までカバーする予定だったが、「インド太平洋」戦略の話で盛り上がっているうちに終わってしまった。それにしても実際の自民党総裁選で、大局的な外交戦略が語られていくことがあるか。人口減少時代に突入した日本だからこそ、柔軟性を持ちつつも、計算された外交戦略が求められていく。内政問題に精力を注ぐためにも、合理的で安定感のある外交政策が必要になっている。北東アジアの人口の停滞を尻目に、世界の他の多くの地域では、人口の激増が続いている。この文章はバングラデシュで書いているが、首都ダッカの交通事情はかなり危機的だ。世界の多くの地域で、人口増による都市化の弊害が見られている。
バングラデシュは、非常に親日的な国だ。しかし2016年のダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件があり、めっきり日本人が来なくなってしまったという話も聞く。その一方で、中国の強烈な攻勢が強まっている。中国企業によるバングラ政府高官への賄賂が大きな問題になったが、氷山の一角だろう。インドを取り囲む地域では、中国の一帯一路イニシアチブがもたらす摩擦が激しい。日本と米国は、インドを特別視する海洋国のネットワークを「インド太平洋」戦略として打ち出しているが、スリランカやモルディブのような島国だけでなく、バングラデシュのようなインドに隣接する周辺国との関係は、微妙だが、重要だ。ただし、このように言うことは、意図的に一帯一路を封じ込めるべきだ、と提唱することではない。むしろ単に構造的に発生している不可避的な状況を、より意識化したうえで、間違いがないように管理していく、ということでもある。
バングラデシュでは、ロヒンギャ問題が深刻だ。100万人にのぼると言われる「難民」を受け入れたバングラデシュは、人道的対応を強調するが、果たしてこの甚大な負担にどこまで耐えられるか、不安に駆られている。日本への期待は、非常に大きい。ロヒンギャの人々を追い立てたミャンマー政府は、伝統的に中国と深い関係を持つ。ロヒンギャ問題で欧米諸国に非難されればされるほど、中国の後ろ盾を求めるようになるという構図もある。ミャンマー西部の天然資源開発が、ロヒンギャ問題の背景にあることは、周知の事実であり、中国にミャンマー政府を切り捨てる動機はない。ただし中国にとっては、バングラデシュも切り捨てることができない重要国だ。二国間交渉を尊重する態度を強調し、慎重に行動している。
日本は、正攻法で、ミャンマー政府とバングラデシュ政府の双方を尊重する態度をとるが、国連を通じた人道援助への資金提供以外に、何をしているのかは、よくわからない。21世紀の国際政治では、一帯一路とインド太平洋がにらみ合う広範な領域で、解決策が見いだせない困難な状況が多発するだろう。実は北朝鮮の問題も、同じなのだ。願わくは、ロヒンギャ問題のような焦眉の課題で、構造的対立を創造的に発展させる国際的枠組みを作る実験ができないか。安定感のある日本の外交は、現実感覚のある外交ということであり、それは消極的に押し黙る外交のことではないはずだ。
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