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2018-09-03 00:00
台湾呼称問題について考える
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
2018年4月、中国の航空行政を管轄する中国民用航空局は、世界の航空会社44社に対し、同年5月25日までに、台湾を中国の一部とする「一つの中国」原則に反する表記を正すよう要求し、変更しない場合は、法的処罰を含む対応を行うと警告した。これに対し、米国ホワイトハウスは「ばかげた要求だ」とコメント、国務省は「強い懸念」を表明し、共同して中国への不満を表明するよう友好国に呼びかけた。このような米国政府の反発にもかかわらず、ルフトハンザ、英国航空、カナダ航空、エアフランス等、欧州とカナダの主要航空会社は、ほとんど抵抗することなしに中国の要求に応じ、台湾の国名表記を「Taiwan」から「Taiwan, China」に変更した。オーストラリアのビショップ外相は、中国からの呼称変更要求に強い怒りを表明する一方で、「この問題について、政府は民間航空会社に圧力をかける立場にない」と述べ、カンタス航空が中国の要求に応じる道を開き、結果的にそのようになった。
その後、7月25日には米国のアメリカン航空が、台湾に関する表記を変更した旨を発表したほか、ユナイテッド航空とデルタ航空もこれに続いた。これらの航空各社のウェブサイトでは現在、台北の空港コードと都市名のみが記載され、「台湾」という表記はなくなった。米国政府の意向に反したこれら動きに対して、ホワイトハウスは何もコメントしていない。では日本の航空各社はどうだろうか。日本航空と全日空は、この問題に対し、中国の要求にも応え、かつ親日国である台湾の立場をも考慮した独自の解決策を打ち出した。それは、中国、韓国、台湾に関しては国名を表示せず、「東アジア」という地域名でくくり、その中で都市名のみを表記するという方式だ。これまでのところ、中国からも台湾からも異論は出ていない。ちなみに、大韓航空とアシアナ航空はエージェント経由の予約サイトで引き続き台湾の国名表記を続けている。
国名表記に関して、中国が厳しい態度で臨んでいるのは航空業界だけではない。2018年1月、マリオットホテルは、同社のウェブサイト上でチベット、香港、マカオ、台湾を国として表記していたことから、同社の中国総代表がサイト上で公式謝罪するまで、予約サイトが1週間閉鎖された。ファストファッションの「ZARA」と「GAP」も「不適切な国名表示」で公式謝罪に追い込まれた。5月には、日本の無印良品が「生産国台湾」と表記したことで罰金20万元(約340万円)の行政処分を受けた。やや旧聞に属するが、2001年には、パナソニックが中国で販売した携帯電話の国番号選択機能の一覧表示で、台湾を“ROC”(Republic of China、中華民国)と表記していたことで中国当局の怒りを買い、携帯電話の販売停止に追い込まれるという事件が起きている。
台湾の呼称は、場合によって異なったものが用いられている。台湾の正式名称は「中華民国」だが、日本を含む多くの国が「台湾」と呼んでいる。オリンピックなど国際競技の場では「チャイニーズタイペイ」の名称が使われている。一方で、在日台湾人の国籍は、外国人登録原票上「中国」となっている。2012年の制度変更で新たにスタートした「在留カード」では、「国籍・地域欄」への「台湾」表記が認められるようになったが、登録原票では依然として「中国」のままだ。中華人民共和国と紛らわしいため、台湾政府は「台湾」表記に変更するよう日本政府に陳情しているが、今のところ改訂の動きはない。ちなみに、他国での台湾国籍の表記を見ると、米国「Taiwan」、ドイツ 「Taiwan」、イギリス「Taiwan-ROC」、韓国「タイワン」、以下フランス、カナダ、シンガポ-ル、南アフリカ、ニュ-ジ-ランド等すべて「Taiwan」で、「中国(China)」と表記している国はない。
台湾呼称問題は、中国人にとって格好なナショナリズム発揚の場であるため、外国企業攻撃の材料として使われる危険性が高い上、運悪く攻撃されたら、いくら抵抗しても勝ち目はない。筆者が確認しただけでも、中国に進出する日本の大企業の中で、台湾表記に関して不備を指摘される可能性のあるところが、少なくとも10社存在することが判明した。中国に進出する企業は、自社の電子及び紙媒体での台湾に関する表記をすべてチェックし、不注意なミスで大損害を被ることがないよう留意すべきだ。
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