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2018-09-05 00:00
(連載1)カスピ海サミットと問われる日本人の国際感覚
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
8月12日にカザフスタンの港湾都市アスタウで1996年以来5回目のカスピ海沿岸5カ国(ロシア、カザフスタン、イラン、アゼルバイジャン、トルクメニスタン)によるサミットが開催され、「カスピ海の法的地位に関する協定」(以下「協定」)が合意・調印された。協定では次の3点で合意したが、実際には多くの問題を含んでいる。第1に、カスピ海は海か湖かという論争が続いたが、海でも湖でもない特別な内陸水域とされ、特別の法律が適用される。第2に、沿岸5か国以外の国のカスピ海での軍事的プレゼンスが禁止された。これにより、ロシアが最も神経を尖らせていた米軍やNATOの軍事プレゼンスが排除された。第3に、水上、水中の境界は定められたが、海底の分割に関する条文は除かれた。したがって、やはり紛争の原因になっていた海底資源の保有問題は、今後は直接の当事国の交渉に委ねられる。
わが国では十分自覚されていないが、カスピ海問題はロシアや中央アジア、コーカサスなどカスピ海周辺国のエネルギーや漁業問題だけでなく、欧州、米国、中近東、中国、パキスタン、インドを含む地域、すなわちほぼ世界全体の戦略問題やエネルギー問題に深く関わっている。この協定の成立により、カスピ海の領有権問題や経済紛争も解決に向かい、より安定的で平和な地域になりつつあるとの印象を与える誤報もある。実際には、カスピ海を巡る根本問題は解決していないし、日本メディアも問題の重要性を認識していない。
ソ連邦時代にはカスピ海は牧歌的といえるほど平和だった。しかしソ連邦が崩壊して様相は一変した。沿岸5カ国がカスピ海の資源や漁業に関して利己的な行動をとって各国の利害対立は深刻化し、軍事衝突に至るまでの深刻な紛争を引き起こしている。したがって、笑い話ではないが近年沿岸5カ国は、カスピ海の自国「海軍」を強化し真剣に軍事演習をして他国を牽制しているのである。こうして、あの平和なカスピ海は「紛争(不和)の海море раздора」とさえ呼ばれるようになった。今回のカスピ海サミット開催の直前にも、全ての沿岸国がカスピ海でそれぞれ軍事演習をし、トルクメニスタン大統領は、演習場から直接カザフスタンのサミット会場に行った。サミット参加の他国への牽制のためだ。ロシアがクリミアを軍事力で「併合」した翌年、2015年の10月にロシアはカスピ海の最新のミサイル艦4隻から、26発のやはり最新巡航ミサイルをシリアの反体制勢力支配地域の11の標的に撃ち込んだ。イラン、イラク上空を1500kmも飛んでのミサイル攻撃だ。シリアでのロシア空軍の戦闘機による空爆とカスピ海からのミサイル攻撃で、ロシア国民によるプーチン支持率は2015年10月に、これまでで最高の89.9%を記録した。
外の世界に対する被害者意識の強いプーチン大統領やロシア政府は、カスピ海に関する今回の協定の最大の成果を、カスピ海から外国軍が排除されるとの合意が成立したことに見ている(TASS通信)。プーチン大統領は今回のサミットに関して次のように述べている。「重要なことは、サミット参加国が軍事的・政治的な相互協力の諸原理を決定し、カスピ海を専ら平和目的に利用すること、そしてこの地域外の軍事力がこの海に存在しないことを保証することである。それに劣らず重要なことは、環境および生物資源の保護に関するカスピ海沿岸諸国の協力である。カスピ海の安全を脅かすインフラ建設に関して、環境保護の観点からの厳しい検査が求められる。」(大統領府サイトより)(つづく)
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