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2007-06-15 00:00
米印原子力交渉と核不拡散体制の今後
堂之脇光朗
日本紛争予防センター理事長
一昨年7月の米印首脳会談での合意に続いて昨年3月にはインドは平和利用核関連施設を分離してIAEAの保障措置を受け入れるとの方針を発表し、昨年12月にはブッシュ大統領が米議会上下両院の承認を得た「米印原子力平和利用協力法」に署名した。同法にもとづく米印2国間交渉はインド首相も招かれたハイリゲンダムG8サミットを目途に決着するべく努力が続けられてきたが、合意は先延ばしとなった。
決着が遅れている理由は、インド側が将来核実験を行った場合にはアメリカは協力を停止するとの条件の削除や、米国産の使用済み核燃料を再処理する権利を主張しているためとのことである。紙数の関係から前者の核実験だけについてみると、インドは核実験モラトリウムを宣言しているが、モラトリウムは本来自発的なもので他国との合意によるべきでなく、ましてや他国の国内法で条件とされるのは言語道断ということのようである。また、核実験を行ったら協力停止との点についても、核燃料供給が停止され得るとの条件付きでの原子力平和利用は成り立たないということであろう。インド側からすれば、現行の核不拡散体制に協力する以上はこの程度の権利主張は当然ということであろう。
他方、仮に米印間での話し合いが決着したとしても、インド・IAEA間の合意がIAEA理事会で承認される必要があり、また原子力供給国グループ(NSG)の全会一致による規則改正も必要となることは米印両国とも了解済みである。したがって、アメリカ側からすればIAEAやNSGで納得を得られやすくするために、インドに対していろいろ注文を付けざるを得ないということであろう。
交渉の前途は多難のように見えるが、急速な経済成長の中で電力不足に悩む世界最大の民主主義国インドによる原子力平和利用を例外扱いとすることにはアメリカだけでなく英、仏、露、それにエルバラダイIAEA事務局長なども一定の理解を示しているとのことである。叡智を結集すれば解決が見出される余地はあろう。NPT条約上の例外的な「非核兵器国」として、平和利用部分に関しては条約上の恩典を認め、軍事利用部分に関してはこれ以上の核兵器開発を助長することは差し控えるが、現状を不問にするとか、時間をかけてでも核兵器廃棄に向かうよう求める、といった選択肢もあり得よう。後者がわが国を含め多くの諸国の願望であることは当然である。しかし、そのためにはアメリカを含めた核兵器諸国が核抑止力を過信する現状を見直し、核兵器廃絶に向けて大きく動き出す必要があり、その場合には核兵器廃絶が国是であるとするインドも反対できなくなるであろう。
米印交渉はNPT体制を形骸化するのではないかと懸念されているが、以上のように現実の交渉は基本的には既存のNPT不拡散体制の土俵の上で行われている。ルールを無視してインドの、或いは米印両国の恣意によって物事が決まることは許されない。国際的な規範設定を念頭に問題を解決していこうとする努力こそが軍縮の歴史と伝統なのであり、そのような努力が健在であるかぎり、希望が失われることはないであろう。
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