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2018-10-05 00:00
サイバー犯罪と無法社会
山崎 正晴
危機管理コンサルタント
先日、香港で貿易業を営む友人が「国際振り込め詐欺」の被害に遭った。日本にある長年の取引先からの仕入れ代金を指定口座に振り込んだが、数日後その取引先から支払い督促のメールが来た。不審に思った友人が経理担当に確認したところ、送金先はその仕入れ先の通常の口座ではなく、メールで指定してきた別の口座であった。口座指定メールのアドレスが仕入れ先のものと一字を除き同一だったことで、経理担当は騙されてしまった。友人からの被害届を受けた香港警察は、偽メールの発信元が海外であること、送金された口座が日本にあること、アカウントを偽造された取引先が日本にあることなどの理由から、捜査には日本警察の協力が不可欠として、友人に対し、日本の警察への被害届提出を要請した。直ちに来日し、被害届を提出しようとした友人に対して、警視庁は「事件発生場所が日本国外である」との理由で被害届の受理を拒否。「詐欺犯の受け取り口座は日本にあるのだから捜査を開始してもらえないか」との友人の要請に対して、警視庁は、「香港警察からインターポール経由で協力要請があれば検討する」と突っぱねた。友人はこの時点で諦めた。彼が被った比較的少額の被害事案でインターポールを通じた国際捜査協力が始まるとはとても思えなかったからだ。
この種の国際詐欺犯罪では、被害者の大半が泣き寝入りしている。2016年12月にJETROが出した「国際的詐欺事件についての注意喚起」では、「口座借用詐欺」「貿易取引型詐欺」「国際入札勧誘型詐欺」「投資型詐欺」など典型的な詐欺の手口を挙げて注意を喚起しているが、その最終項目「詐欺等の被害に既に遭われてしまった場合には」の中で、「残念ながら事後に取れる対策は殆どありません。日本の行政権は海外では通用せず、仮に相手国政府に対策を求めたとしても、警察力が末端まで及ばない地域も存在し、詐欺対策よりも凶悪犯罪の軽減と治安回復が優先される地域もあるのが実情です」として、被害に遭ったら諦めるしかないリアルな現実を伝えている。
これがサイバー犯罪となると、捜査はさらに困難となる。2018年1月26日、日本の仮想通貨取引所、コインチェックから何者かにより盗み取られた580億円相当の仮想通貨は、各国捜査機関や専門家による懸命な追跡にもかかわらず、結局闇に紛れてしまった。サイバー犯罪捜査の国際協力体制構築を目的とした「サイバー犯罪条約」が2001年欧州評議会の発案で発足し、現在日本を含む約30ヶ国が批准しているが、日本に対するサイバー攻撃の40%の発信元とされる中国をはじめ、多くの国が条約未加盟であるため、サイバーワールドは依然として無法者の天下だ。海運関係者にとっての無法地帯は広大な公海だ。2007年10月に、日本船社所有のケミカルタンカーが乗組員ごとソマリアの海賊に乗っ取られた事件で、救援を求めた船主に対し、発生海域が公海上であり、船籍も乗組員の国籍も日本でないとの理由で、日本政府が救援を拒否したことは、我々の記憶に新しいところだ。民主党(当時)の長島昭久議員や麻生太郎首相(当時)らの党派を超えた努力で海賊対処法が出来、海上自衛隊の護衛艦がアデン湾で護衛活動を開始するまでに、それから2年を要した。
国内、国際を問わず、犯罪被害者の大多数は誰からの支援も得られず泣き寝入りし、その裏で無法者たちが莫大な富を得ている。この理不尽な現実に対処する方法はただ一つ「自助努力」しかない。ここでの「現実的努力目標」は、周囲の他社や他人より「少しだけ」レベルの高い防衛努力をすることだ。犯罪者は効率を重視するため、他と比べ少しでも面倒そうな標的(ハードターゲット)は敬遠し、逆に他より防衛力が弱そうな標的(ソフトターゲット)は瞬時に攻撃する傾向があるからだ。繰り返しになるが、サイバー犯罪攻撃の巧妙化に伴い、今後、我々は常に自助努力を怠らないことが大切である。
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