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2018-10-09 00:00
尖閣防衛に注目の日米統合作戦論
鍋嶋 敬三
評論家
米中貿易戦争が世界の耳目を引く中、沖縄県の尖閣諸島など東シナ海の中国の軍事的脅威に対して、米国が同盟国・日本と共同で戦略、作戦を策定し、部隊や基地を統合運用すべきとの研究報告が米国で相次いでいる。中国の経済的、軍事的進出が米国の安全保障上の脅威になってきたとの危機感の高まりを反映するものだ。ペンス副大統領は10月4日、対中政策演説の中で尖閣諸島に言及、「前例のない中国の力の行使」を非難した。ハドソン研究所は9月下旬、「戦略的島嶼防衛の日米協力」と題する研究報告をまとめた。尖閣諸島の防衛に焦点を絞ったもので、インド太平洋地域の現状変更を目指す中国の第一の目標は、東シナ海と南シナ海を囲い込む「第一列島線」(九州南部-沖縄-台湾-フィリピン-ボルネオ島)の障害を「無力化」することである。
狙いは台湾侵攻の要となる尖閣及び琉球諸島であるとする。中国本土の青島や寧波などの基地から南シナ海や太平洋に出るには台湾海峡と宮古海峡の隘路(あいろ)を横切らなければならないからだ。報告では、中国による侵攻に対して日米とも危機対応の統合的手段を欠くことだと問題点を指摘した上で、南西諸島防衛強化のため日米は戦略と作戦の両面で関与と協力を強めるべきと主張、自衛隊と米海兵隊とによる離島の共同防衛を提案した。また、中国が台湾侵攻とともに尖閣奪取と宮古海峡制圧のため先制攻撃する可能性を過小評価していると警告を発した。台湾侵攻のためには尖閣など周辺を抑えることが先決なのだ。南西諸島における日米共同の防衛能力向上が対中抑止力の強化につながると結論付けている。ニューヨークタイムズ紙は8月下旬の記事で、中国の海軍、ミサイル戦力近代化で「太平洋の勢力バランスが変化した」と報じた。
中国が最も重要と見なす地域ー台湾海峡と南シナ海ーで「米国の軍事優勢に挑戦できるほどになった」と同紙は指摘。米インド太平洋軍(ハワイ)のP.デビッドソン司令官が3月に上院公聴会で「中国はあらゆるシナリオで南シナ海を支配する能力がある」と証言したことを伝えた。ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)は第4次となる「アーミテージ・ナイ報告」を10月3日公表した。「かつてないほど重要・21世紀の日米同盟の再生」と題する超党派の専門家による文書は「米国第一主義」のトランプ政権が保護貿易圧力を強め、同盟関係への「深刻なリスク」をもたらしたとの危機感が出発点だ。今や「日米同盟にひびも見え始めた」と警鐘を鳴らした。同盟関係再建のための10項目の提案の中で、日本の防衛費の国内総生産(GDP)1%以上に引き上げ、西太平洋にまたがる統合任務部隊や在日米軍基地の自衛隊との統合、自衛隊統合司令部の創設などを提案した。日本の政治はこれを受けて立つ用意があるだろうか?
尖閣諸島に対する中国の脅威に対応するため、軍隊ではない「海上民兵」などが島を占拠する「グレーゾーン事態」での「米軍の早期介入を考慮すべきだ」との主張は注目すべきである。このような措置によって、日米安全保障条約第5条(日本領土への武力攻撃への対処)が適用される軍事攻撃の一線を越えるか否かにかかわらず、強力な同盟協力発動の引き金となり、対中抑止力になるというわけである。特徴的なのが同盟の経済的側面だ。国際経済政策上の紛争の排除、二国間経済協力の促進をうたった日米安保条約第2条を取り上げ、トランプ政権による環太平洋連携協定(TPP)離脱は「全く不幸なこと」と批判する一方、米国抜きのTPP11をまとめ上げた安倍晋三首相を高く評価した。日本は経済的ライバルでなく極めて重要なパートナーであり、日米が挑戦されているのは中国であって、米国と日本、欧州連合(EU)には開かれたルールに基づく経済環境のための共通戦略の必要を説いている。問題はトランプ大統領がこの超党派の意見に耳を貸す度量があるかどうかである。
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