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2018-10-16 00:00
(連載2)中国・欧州関係から日本の安保への影響を考える
三船 恵美
駒澤大学教授
中国と欧州の関係から考える日本が留意すべき第二点目として挙げるのは、「軍民融合」と密接に関連した「中国製造2025」に対する欧米諸国と日本の危機認識の乖離である。「中国製造2025」と「一帯一路」の連携について日本は安全保障の面からもみる必要があるのではなかろうか。四方立夫先生が日本国際フォーラムの姉妹団体である、グローバルフォーラムのe-論壇「議論百出」(http://www.gfj.jp/cgi/m-bbs/index.php?title=&form[no]=3823)で論じておられるように、現在展開されている米中経済対立の根底には、「中国製造2025」による技術覇権を巡るせめぎ合いがあり、日米欧が協力して対中IT技術流出防止を図ることが求められている。日本の一部のマスメディアは、「中国製造2025」を「インダストリー4.0の中国版」と紹介している。しかし、それは違う。「中国製造2025」は「インダストリー4.0の中国版」とは言えない。2015年に中国政府が発表した「中国製造2025」とは、第1段階の2025年までに中国が「世界の製造強国入り」を果たし、第2段階の2035年までに中国の製造業レベルを世界の製造強国陣営の中位へ押し上げ、第3段階の2045年に中国が「製造強国のトップ」になるという戦略構想である。この構想の中核は、(1)イノベーション力の向上、(2)デジタル化、(3)国産化率の向上の3点である。中共や中国政府に号令をかけられたからと言って、短期間で中国企業が独力で「世界の工場」から「スマート製造」へ転換をはかるにはハードルが高すぎる。そこで、欧米日企業への提携・連携やM&A(合併・買収)などを活発に行い、先端科学技術を取得しているのである。
かつて中国の家電大手「美的集団」が世界4大ロボットメーカーのクーカ(Kuka)を買収しようとした際、それを懸念したドイツの政界や官僚から警告もあったが、中国という巨大マーケットへのアクセスは「魅力」だからと、クーカは美的集団へ売却されてしまった。しかし、アイクストロン社が中国の投資ファンドに買収されそうになった際には、アイクストロンの技術を中国が武器製造に使用すれば、その結果としてアメリカの安全保障が脅かされてしまうと、当時のオバマ政権が危惧し、アイクストロンの子会社がアメリカにあったので、大統領令を発動して、アイクストロンの買収劇を潰したのである。中国企業によるEU内の先端技術関連企業への投資の急増に対して懸念が高まるなか、昨年フランスやドイツやイタリアが規制強化へ動いた。しかし、ギリシャとチェコが反対し、法案成立には至らなかった。しかし、現在、ドイツは、EU域外の企業がドイツ企業に投資する場合に政府が介入できる出資比率の変更などの規制強化に向かっている。「中国製造2025」は「一帯一路」と密接な補完関係にある。中国の「一帯一路」構想は、経済のみならず軍事、デジタル、宇宙回廊、衛星、サイバーなどの戦略までをも含んでいる。中国は、「一帯一路」をとても上手に使って、パクスシニカ(中国の覇権)の勢力圏を拡げようとしている。「一帯一路」の提携範囲は、2013年提唱当時のシルクロードを超えており、もはや明確な地理的概念や世界地図ではとらえきれないものである。2018年1月には、中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)」にも太平洋を越えたシルクロードづくりを提唱している。そこには、南北の両極戦略が垣間見られる。
そこで日本が警戒すべき第3点目として、中国と欧州を結ぶ航路として注目されている「北極海航路=氷のシルクロード」構想の展開が日本の安全保障へ及ぼす影響である。2017年6月、中国の国家発展改革委員会・国家海洋局が「『一帯一路』建設海上協力構想」を発表し、海のシルクロードにおける3つの重点建設ルートとして、(1)中国-インドシナ半島経済回廊-南シナ海-インド洋、(2)中国-オセアニア-南太平洋、(3)中国-北極海-ヨーロッパの3ルートを示した。「氷のシルクロード」には、航路短縮やエネルギー資源の戦略に加え、アメリカのミサイル防衛(MD)への対応も関係がある。1990年代すでに北極圏調査に着手していた中国は、2004年にノルウェー領スピッツベルゲン島に中国初の北極科学観測基地「黄河基地」開設し、2013年に北極評議会のオブザーバーとなった直前には、当時の温家宝総理がアイスランドを訪問し、「北極協力に関する枠組み協定」やFTAを調印した。2016年にグリーンランドと「北極科学研究の共同推進に関する覚書」に調印した中国は、翌2017年にはグリーンランドの旧海軍基地を買収しようとしたものの、デンマーク政府が安全保障上の理由からその話を潰した。軍事現代化を進める中国の「氷のシルクロード」戦略には、資源や航路短縮などの開発や経済を超えた軍事領域のねらいもあることに警戒しなければならない。
北極海に面していない中国の「氷のシルクロード」は、北朝鮮の羅津(ラジン)港や清津(チョンジン)港を使って津軽海峡や宗谷海峡を通り、北極海へ向かうことになる。つまり、「一帯一路」提唱の前から北極サークル諸国へ積極的に関与を拡大してきた中国が「一帯一路」を上手に使って進めているヨーロッパへ向かう「氷のシルクロード」構想は、日本海ルートにおける中国プレゼンス拡大を伴うものである。新潟や北海道(今後は青森での動向も注視されよう)で近年急速に進めている「中国資本による合法的な動向」に、中国の北極圏戦略に繋がる日本海ルート構築戦略への対策として、日本は対応していけるのだろうか。(おわり)
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