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2018-10-23 00:00
わが国の北極戦略はどうあるべきか
四方 立夫
エコノミスト
駒澤大学教授の三船恵美先生は10月16日付け投稿「中国・欧州関係から日本の安保への影響を考える」の中で北極海航路の問題に関し論じておられるが、まさに正鵠を得た議論である。北極には平和利用を定めた南極条約のような国際ルールが整備されていない。1996年に北極圏国(ロシア、米国、カナダ、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド)を中心とした北極に関する唯一の政治組織である北極評議会が設立され、日本、中国、英国、フランス、ドイツ、インドなどがオブザーバー国となっている。ロシアは国連海洋法条約(UNCLOS)21条(無害通航に関わる沿岸国の法令)及び234条(氷に覆われた水域)を根拠に北極海航路の規制制限を主張しており、航行に際し事前通知、水先案内及び砕氷船の随行などを義務付ける法令を適用している。また、北極海は大陸棚が非常に広くかなりの部分を延長区域に区分けできる可能性があることから、ロシアは大陸棚延伸の主張を行っている。さらに、連邦保安庁(FSB)に所属するロシア国境警備隊により国境管理が強化され、北洋航路管理局を新設し、2013年プーチン大統領は「北極はロシアがここ数世紀に亘って主権を保持する不可分の地域だ」と述べ、北極開発を推進している。
中国はデンマーク、フィンランド、カナダ、など北極圏国との関係を強化すると共に、北極調査の実績を重ね、北極海航路を航行し、将来的には中国の国際貿易の最大15%が北極海経由となる、とも言われている。さらに、北極海における米露の原潜の活動が活発化する中で、中国原潜も新たなアクターとして登場する可能性もある。一方、ロシアは北極海のアジアとヨーロッパの中間にあるヤマル半島においてLNGの開発を行い今年末には年間1,650万トンが生産される予定であり、さらにその対岸に年間2,000万トンのLNGプロジェクトを計画する中で、年間8,400万トンを消費する世界最大の消費国である日本も参加を求められている。このLNGの掘削コスト並びに製造のランニングコストは安価であり、極地の気候はマイナス162℃に冷却/液化して輸送する LNGには有利であるとされているが、日本着ベースでの価格競争力に関しては慎重に検討する必要がある。ヤマル半島~日本への北極海ルートの距離は約5,000海里、LNGの主要輸出国であるカタール~日本の距離は約6,600海里であるが、海上運賃は単純に航海日数に比例して決まるものではなく、海上の状態並びにそれに伴うリスクによって大きく異なる。且つ砕氷LNG船の建造コストは通常の1.5倍、これにロシアの水先案内人並びに砕氷船の随行コスト、及び海上保険料を考慮をすると、中東~東南アジアからの輸入の方が安価で且つ安全である公算が大である。
現在ロシアはサハリン1原油生産プロジェクトにおいて日米民間企業など5社を「不当な収入を得た」として提訴中であり、サハリン2LNGプロジェクトにおいても当初外資100%でスタートしたにも関わらず、販売先が確保されLNG価格が急騰すると突然環境アセスメント不備を理由に中止命令を出し、最終的にはガスプロムが「50%+1株」を取得して主導権を握ることにより決着した経緯がある。従い、北極海航路の開拓並びに資源開発には、複雑な政治リスク並びに経済コストの問題がある故、「北方領土問題を解決して平和条約を結ぶ」ことに前のめりになり、ロシアと経済的合理性に乏しい契約を締結することが無きよう、厳しくリスク及びコストの見極めを行うことが肝心である。また、世界中で大規模な構造変革が進行するエネルギーの分野に於いて、戦前から唱えられている「石油の一滴は血の一滴」の如く「量」の確保のみならず、価格競争力及び契約の柔軟性を担保することが肝要である。特に、今後炭化水素の世界のエネルギー全体に占める割合が相対的に減少し、超長期の硬直的な契約が主体であったLNGに於てもシェールガスの登場により短期の柔軟な契約が可能となってきたことから、民間のビジネスの視点を踏まえていくことが重要である。世界地図を90度回してロシア~中国の側から日本列島を見れば、まさに我が国は北方領土~尖閣諸島に至るまで南北に亘り両国の太平洋への進出をブロックする移置にあり、北極海航路並びに資源の開発が進むにつれ日本の戦略的地位は益々重要となる。今後とも日米同盟を基軸としながらも、関係各国との二国間~多国間のパートナーシップを構築し、日本の国益に沿った北極戦略の構築が喫緊の課題である。
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