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2018-10-25 00:00
サウジの米、トルコとの軋轢深刻化
杉浦 正章
政治評論家
なんともはやアラビアンナイトの千夜一夜物語を読むような凄惨さである。サウジ人記者ジャマル・カショギ殺害事件は、サウジ皇太子ムハンマド・ビン・サルマンの意向と深い関係なしでは考えられない。本人は「下の者がやった」と日本のヤクザの弁明のような発言をしているが、信ずる者はいまい。目撃者も多く真相はやがて確実に日の光を見るだろう。当然国連でも採り上げるべき問題だろう。サウジは最も重要な同盟国である米国、および中東で有数の軍事力を誇るトルコ双方との間で大きな軋轢を抱えることとなった。米国はサウジとの同盟関係を維持しつつ、皇太子の暴挙を批判しなければならない二律背反状態に陥っている。
サウジ側の声明ではカショギが「けんかと口論の末殺された」としているが、59歳の分別あるジャーナリストが、多勢に無勢のけんかを本当にしたのか。トルコ当局によると「殺害されその場で死体はバラバラにされた」としているが、死体の解体によって隠ぺいできるという判断自体が幼稚で度しがたい。実行犯は15人でそのうち5人が皇太子の護衛であったという。護衛と言えば戦闘訓練を積んだプロであり、素人の殺人事件とは性格を異にする。外相アデル・ジュペイルは「皇太子はもちろん情報機関の幹部も感知していない」と関与を頭から否定しているが、信ずる者はいない。カショギは従来から皇太子の独裁的な手法を非難してきており、殺害はその報復と見て取れるからだ。ムハンマドも「自分は事件とは関係なく、下のレベルで行われた」と述べているがこの発言も語るに落ちた。「下のレベル」とは部下だからだ。大使館内とはいえ国内で事件を起こされたトルコの大統領エルドアンは「情報機関や治安機関に責任を負わせるのでは誰も納得しない」と、サウジ側の発表に強い不満を表明している。加えてエルドアンは「殺害は偶然ではなく、計画的なものだ。我々は動かぬ証拠を握っている」とも発言している。
米大統領トランプも「目下のところ現地では皇太子が取り仕切っている。上層部の誰が関与したかと言えば彼だろう。史上最悪の隠ぺいを行った」と述べていたがその姿勢は揺れに揺れてる。関係者のビザ取り消しなど厳しい対応を示唆したかと思うと、サウジへの武器輸出は推進。しまいには「下の者がやったと皇太子は言っていた」皇太子を擁護までした。まさに右往左往の醜態を示した。米CIA(中央情報局)は、まさに活躍の場を得たとばかりに、膨大な情報をホワイトハウスに送り込んでいるに違いない。トランプは皇太子の発言を信ずるかCIAを信ずるかと言えば、いうまでもなくCIAだ。一方米議会からは「米国の基本的な価値観は自由を守り民主主義を維持することであり、マスコミ関係者を殺害するという行為を認めるわけにはいかない」とのスジ論が巻き起こっている。
米国にもジレンマがある。もし制裁で武器輸出を禁止した場合には、喜ぶのはプーチンと習近平だからだ。サウジをロシアや中国からの武器輸入に追いやることはなんとしても避けなければならないのだ。なぜなら中東安定の構図にマイナスの要素が入り込むからだ。しかし、米国内世論は圧倒的に皇太子への何らかの制裁を求める空気が濃厚であり、トランプは中間選挙を目前にして苦しい選択を強いられる状況だろう。 ムハンマド皇太子は24日、国際社会から激しい批判を浴びる中、サウジ政府として、犯人を裁く考えを示した。皇太子は、「忌まわしい出来事で、正当化されるものではない」と語っているが、今後国連などでのサウジ批判噴出は避けられず、皇太子は外交面で困難な状況に直面した。
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