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2018-10-30 00:00
中国の対日大接近は「強国路線」の一環
杉浦 正章
政治評論家
単なる貿易戦争と言うより米中二大超大国の覇権争いが始まったとみるべきだろう。中国は米国との冷戦状態に入ったが、日本とは関係改善に動くなど二股柔軟路線だ。加えて今年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年であり、首相・安倍晋三訪中の極東安定に果たした役割は大きい。背景には米中貿易戦争が、中国の態度に変化を促したことがあるのは確かだろう。中国が日本との関係を強化しようとするのはパワーバランス上の狙いがあるからであり、喜んでばかりはいられない。日本は米中のはざまで、ただでさえ流動化している極東情勢が波乱の激動期に突入しないようラジエーター役を好むと好まざるとにかかわらず求められるからだ。日中関係は安倍訪中により戦後まれに見る良好な関係へと入りつつある。安倍との会談で習近平は「この歴史的なチャンスをつかみ中日関係発展の歴史的な指針とすべきだ」と強調した。さらに加えて習は「日本訪問を真剣に検討する」と来年の訪日を確約した。過去には日本など眼中にないとばかりに、安倍と会っても何かくさい臭いでも嗅いだかのような表情をしていたが、こういった態度をがらりと変えたのだ。これに先立ち下準備のために来日した首相李克強も関係改善の必要を説いており、中国の対日大接近は習政権挙げての大方針として固まっていたことが明白だ。首脳会談で安倍が「競争から協調へ、日中関係を新たな時代へと導いて行きたい」と応じたのは、まさに日中蜜月時代の到来を予測させるものであった。
世界も安倍訪中を固唾をのんで見守っており、仏の国営ラジオ放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)は27日、中国語版サイトで、日中関係について「米中の関係悪化により日中は対抗状態から抜け出す」とする記事を掲載した。記事は、「米国と中国との間の貿易戦争が、世界の『長男』である米国と『次男』中国との関係を全面的に悪化させた。一方で『次男』の中国と『三男』の日本が手を差し伸べ合うことを促し、日中関係を7年間に及ぶ低迷期から抜け出させた」と明快に分析している。 日中関係は1972年の国交正常化で極めて良好な関係に入ったが、以来、絶えず起伏があった。とりわけ、2012年から13年にかけては、尖閣問題や歴史問題で最悪の状態にまで冷え込んだ。安倍は今回経済界リーダー500人を率いて訪中し、500件を超える協定に署名し、「その価値は計26億ドル(約2900億円)に達する」とした。 中国の態度激変の背景には、米中貿易戦争のエスカレートがある。貿易戦争の結果経済は悪化しており、安全保障の分野にまで対立の構図ができつつあり、長期化する様相を見せている。筆者がかねてから指摘しているように中国と米国は、「新冷戦時代」に突入しているのだ。こうした背景を見れば対日接近が、経済的利益につながると同時に対米牽制の狙いがあることは明白であろう。日米関係にくさびを打ち込もうという狙いが透けて見えるのだ。
この超大国の覇権争いに多かれ少なかれ日本は巻き込まれるだろう。地政学上から言っても、それが宿命だ。だが、日米同盟の絆はいささかも揺るがしてはならない。中国ばかりでなくロシアのプーチンまでが喜ぶことになりかねないからでもある。米中貿易戦争は始まったばかりであり、米国は矛先を緩める状態にはない。対中関係を過剰に緊密化すれば、良好なる安倍・トランプ関係にも影響が生じかねない要素である。その線上で、日米関係が悪化すれば習近平の思うつぼにはまることになる。安倍は日米同盟関係を維持しながら、対中関係改善で経済的利益を最大化するという、サーカスでの“空中ブランコ”を演じなければならないのである。時には習近平の「強国強軍路線」という「新覇権主義」に手を広げて「まった」をかける必要も出てこよう。国連の場などを通じて世界世論に働きかける手段なども必要となろう。
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