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2018-11-08 00:00
(連載2)プーチン氏の平和条約提言の問題点
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
2、日露間の平和条約と中露間の善隣友好条約は全く性格を異にし、比較するのは無意味だ。というのは、平和条約(講和条約)とは、戦争をした国の間で領土問題を含む戦後処理が最終的に終わったことを意味するものである。しかし、善隣友好条約は戦争とは関係のない異質の条約である。プーチン氏は中国とは40年間領土問題で議論してきたと述べたが、中ソ間、中露間には武力衝突はあったが国際法上の戦争はなく、したがって平和条約とは無関係だった。この事例を日露間の平和条約の「手本」とすること自体、未意味だ。
3、ロシアと中国が2004年に領土問題に終止符を打ったのは、友好関係が高まったからではない。逆にプーチン大統領は、経済的にも軍事的にも急速に強大化している中国が将来ロシアに領土要求を突きつけることを恐れていたからである。中国は1858年の璦琿条約、1860年の北京条約で日本の面積の4倍にあたる150万㎢の領土を帝政ロシアに奪われた。そして中国は、19世紀のこれらの条約を今日でも力によって強いられた「不平等条約」と称している。ロシアはその奪回の動きが将来出ることを恐れて、領土問題の解決を急いだのだ。つまり、中露間では、信頼の高さ故ではなく、ロシアの中国への恐れあるいは不信感ゆえに、プーチンは一定の譲歩をしても領土問題を早く解決しようと決心したのである。
4、平和条約が領土問題を含む戦後処理が最終的に終わったことを意味する以上、平和条約締結後に、領土問題の交渉を続けるということは、現実的には有り得ない。ではなぜプーチン氏は、「われわれは領土問題は存在しないと考えている」と言いながら、平和条約締結後に、さらに信頼関係を高めて領土問題の議論を続けようと口にするのか。その理由は、領土問題をロシアが全く無視していると日本が思ったら、ロシアとの経済協力などに日本は無関心になると恐れているからだ。ロシアの主要紙は、ウラジオストクでの平和条約に関するプーチン発言の翌日に、「領土問題がなければ、日本はアジアにおける英国、すなわちアジアで最も反露的な国になっただろう」と述べている。さらに同紙は次のようにも述べた。「ロシアにはひとつのコンセンサスがあった。すなわち<将来には>領土論争は解決できるとの希望を、見かけだけにせよ日本側に与える、ということだ。」(『コメルサント』2018.9.13)「見せかけだけにせよ、希望を与える」というのがポイントで、ロシア側は北方領土問題を、馬の前にぶら下げる人参と見ているのである。
最後に、ロシアの元外務次官で日露の領土交渉にも深く携わったG・クナーゼ氏のプーチン提案(領土問題の解決を抜きにした平和条約の締結)に対する評価を伝えて、締めくくりとしたい。「日本は時にプーチン氏が公然と日本を愚弄しても、ロシアの好意を求めてくる。最近の平和条約提案に関しては、これほど侮辱的な提案は、ブレジネフのソ連時代でさえも日本に対して行わなかった。」(『セヴォードニャ』2018.9.25)首相官邸やその周辺の人たちは、「東方経済フォーラムにおけるプーチン発言は、平和条約締結に対する前向きの姿勢と理解したい」と述べている。苦し紛れの言葉だとは思うが、彼等はクナーゼ発言のニュアンスをどのように理解するだろうか。(おわり)
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