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2018-11-15 00:00
危うい歯舞、色丹の「2島先行返還論」
杉浦 正章
政治評論家
日露首脳会談の焦点は言うまでもなく、北方領土問題であったが、首相・安倍晋三の成果を急ぐ姿勢が目立ち、プーチンに「技あり」を取られかねない側面が生じた。なぜかと言えば日本が「四島返還」より「歯舞、色丹の2島先行」に傾斜したと受け取れるからだ。安倍は56年の日ソ共同宣言の「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」に回帰して、とりあえずは二島返還で平和条約交渉を先行させる構えを垣間見せている。しかし、したたかなプーチンが先行返還と言っても他の2島を返還する可能性はゼロに近いと見るべきだろう。問題は、56年共同宣言に盛られた北方領土は「歯舞群島と色丹島」だけであり、国後、択捉への言及がないことだ。ロシアの「二島での食い逃げ」は当然予想できることである。にもかかわらず2島返還で平和条約を締結することになれば、ロシア側は日本の譲歩と国内的に喧伝する意図がありありだからだ。なぜならプーチンはかねてから「国後、択捉は議論の対象にならない」と主張してきており、それが実現したと受けとれるからだ。
あきれたことにプーチンは、歯舞群島と色丹島についても「日本に引き渡された後の2島に日露どちらの主権が及ぶかは共同宣言に書かれていない。今後の交渉次第だ」と、引き渡した後もロシアの主権が及ぶという姿勢を貫こうとしている。したたかにも交渉のハードルを上げてロシアの主権を主張する意図がありありだ。クリミア併合で国内の評価が急上昇した“甘い汁”を北方領土でもう一度という魂胆が垣間見える。プーチンは国際的にウクライナの領土と見なされていたクリミア自治共和国、セヴァストポリ特別市をロシア連邦の領土に加えることに成功した。1991年にソビエト連邦が崩壊し、ロシア連邦が成立した後、ロシアにとって本格的な領土拡大となった。北方領土で譲歩すればクリミアで得た国民の評価を、一挙に灰燼に帰することになるのが構図だ。さらに重要なのはロシアには北方領土を日本に渡せば、米軍が常駐しないまでも、一朝有事の際は島々が米軍の不沈空母となりかねないと言う危惧がある。地政学的には極東における日米の安全保障上の立場を強化することになる。当然予想される事態だ。
最近の対露交渉で懸念されるのは、プーチンの「食い逃げ」である。プーチンの狙いは、日本の経済協力であり、その発言から見る限り領土問題での譲歩は、そぶりすら見せていない。日本側には通算22回も会談するのだから「めどくらい立つだろう」との期待が強いが、表だって目立つのはプーチンのしたたかさだ。安倍の会談の目的は領土問題だが、プーチンには会談すること自体を重視しているかに見える。加えて、プーチンは10月に公的な会合で「日露間に領土問題は存在していない」と言明、交渉姿勢を分析すれば「ゼロ回答」ばかりが透けて見える。今後安倍は、月末のブエノスアイレスでの主要20か国首脳会議でも首脳会談を行うし、来年には早い時期に訪露する方針である。ロシア経済は原油価格の低迷によって2015年、16年と2年連続で景気後退に陥ったものの、価格の持ち直しで2017年の同国の実質国内総生産が前年比で1.5%増え3年ぶりのプラス成長を達成。2018年も2年連続のプラス成長が見込まれている。したたかなプーチンは堅調なロシア経済を背景に強気の外交姿勢を維持するものとみられ、突き崩すのは容易ではあるまい。安倍としては、来年夏には参院選があり、急進展があれば別だが、対露外交はよほどの進展がない限り選挙のプラス材料にはなりにくいのが実情だ。
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