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2018-11-21 00:00
(連載1)米中間選挙後の鍵はロシアと極右
河村 洋
外交評論家
先のアメリカ中間選挙の結果についての評価は十人十色である。トランプ氏の共和党は上院では勝利したが下院では敗北した。全てを考慮しても、どちらが実際に勝ったかを明言することは難しい。また、今回の選挙結果だけに基づいて2020年大統領選挙時の政治的動向を語るには時期尚早である。メディアでは両院での女性とマイノリティーの議席増加が称賛されている。しかし火急の問題はアメリカ国内および海外で無数の人々を恐怖に陥れているトランプ路線に対して、議会が歯止めをかけられるかどうかである。そこで選挙後のアメリカ政治の希望と絶望に関して、以下のキーワードから語ってみたい。それは「政策的プロフェッショナリズム」「人権」「ロシア」そして「極右」であろう。この目的のために党派間の勢力の数的な分析ではなく、今回の選挙での注目すべき当選者と落選者に絞って語ることとする。
希望的な側面を代表するのがニュージャージー州7区から選出された民主党のトム・マリノウスキー下院議員であり、元国務次官補で民主主義・人権・労働問題を担当していた。国務省入省以前にはローズ奨学生としてオックスフォード大学で学び、ダニエル・パトリック・モイニハン上院議員のスタッフやフォード財団などシンクタンクの研究員を務めた。外交官としてはクリントン政権とオバマ政権に奉職した。ブッシュ政権期にはヒューマンライツ・ウォッチのワシントン事務所所長を務め、ミャンマーの民主化改革、タリバン支配下のアフガニスタンでの女性の権利、シリアでの文民保護に向けた運動を進めてきた。こうした輝かし経歴が示すように、マリノウスキー氏は人権を専門とする政策形成のプロとして名高い。民主党寄りの色彩が濃い経歴ではあるものの、当選の折にはブッシュ政権期のニコラス・バーンズ国務次官にオバマ政権期のサマンサ・パワーズ国連大使といった超党派の元国務省高官から祝福された。
人権はアメリカ外交の核心的アジェンダであったが、ドナルド・トランプ現大統領がこの問題にあまり真剣でないことは、サウジアラビアによるカショギ事件に対する中途半端な態度に典型的に表れている。当初から、レックス・ティラーソン国務長官の任命では物議を醸した。ティラーソン氏はトランプ氏のアメリカ・ファーストを緩和できる「政権内の大人」の一人とは見なされていたが、上院公聴会ではサウジアラビアでの女性の権利やシリアでのR2Pといった重要な人権問題への関心も薄く知識も不充分だということから、国務長官職への彼の資質は疑問視されていた。注目すべきことに、マリノウスキー氏はポーランドからの移民である。アメリカにやって来たのは、母親がリベラル派ジャーナリストのブレア・クラーク氏と結婚した6歳の頃である。彼のバックグラウンドのあらゆる事柄は、トランプ氏の野蛮な反主知主義、視野の狭いナショナリズム、冷血な酷薄性、そして腐敗臭漂う低俗性に対するアンチテーゼである。マリノウスキー氏にはベト・オルーク氏のような光り輝くスター性はないかも知れないが、彼の知識、経験、そして国務省同僚たちからの信頼によって、トランプ政権発足からの人権をめぐるアメリカ外交の立て直しに一役買うであろう。
もう一つの希望的な出来事は、カリフォルニア州48区での共和党のダナ・ローラバッカー下院議員の落選である。これがただの一議席ではないのは、この人物がプーチン政権下のロシアばかりか、英国独立党のナイジェル・ファラージ元党首、ポーランドのアントニ・マシェレウィチ元国防相、ハンガリーのビクトル・オルバン大統領といった極右と緊密な関係で悪名高いからである。その中でもファラージ氏とオルバン氏は、ヨーロッパをナショナリズムで伝統主義が支配する地域にしようとウラジーミル・プーチン氏が掲げる反グローバル主義および反リベラル民主主義の主張に共鳴しているが、それはEUおよびNATOの理念とは完全に相容れない。ローラバッカー氏は早い段階から親露路線を歩み、アメリカの国益を損なってでもオルタナ右翼の主張を通そうとしてきた。露・ジョージア戦争の最中にはジョージアがロシアを挑発したと非難もした。さらに重要なことはプーチン大統領の法律顧問ナタリア・ベセルニツカヤ氏がドナルド・トランプ・ジュニア氏とジャレド・クシュナー氏とトランプ・タワーでFBI捜査の対象になっている共謀のために会談していた最中に、彼は下院公聴会でマグニツキー法を非正当化しようとしたのである。ロシア捜査に関しては、ジェフ・セッションズ司法長官がロバート・ミュラー特別捜査官による捜査を中止しなかったと非難した。(つづく)
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