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2018-11-22 00:00
(連載2)米中間選挙後の鍵はロシアと極右
河村 洋
外交評論家
ロシア以外でもローラバッカー氏にはテロと人権の問題で、アメリカの下院議員としての資質を疑わせるような発言もあった。2017年にISISがイラン国会を襲撃して民間人17人の死者を出した際にはテロ行為を称賛している。そうした行為はヒューマンライツ・ウォッチと全米イラン系アメリカ人協会から厳しく批判された。さらにローラバッカー氏は、極右の問題児でホロコーストを公然と否定するチャールズ・ジョンソン氏から寄せられた支持に謝意を述べた。30年にわたる下院議員としての経歴を通じて、ローラバッカー氏は徹頭徹尾の反共主義者で、中国やイランなどアメリカの敵国に対してはタカ派であった。しかしプーチン大統領やヨーロッパの極右との緊密な関係のみならず、人権問題を軽視するような態度では、自らの政治理念をレーガン保守だと言ったところでアメリカの価値観とは相容れない。実際にローラバッカー氏は典型的なトランプ共和党員であり、だからこそカリフォルニア48区での彼の落選が反トランプ陣営にとって非常に重要になるのだ。
他方、何もかもが希望的だったわけではない。絶望的な結果は、アイオワ州4区で白人ナショナリストのスティーブ・キング下院議員が再選されたことである。ローラバッカー氏と同様にキング氏もオルタナ右翼の問題児である。今年の10月にはポール・ライアン議長ら下院共和党議員有志から、トロント市長選挙で極右のフェイス・ゴールディー候補を支持したことで厳しく非難されている。ゴールディー氏はカナダ版ミニ・トランプで、白人至上主義者のリチャード・スペンサー氏を称賛しているうえに、ネオナチ系の『デイリー・ストーマー』誌の特集記事にも登場している。キング氏はヨーロッパの極右と緊密なばかりか、プーチン氏についても元チェス世界チャンピオンのゲーリー・カスパロフ氏がアメリカへの亡命を余儀なくさせられたにもかかわらず、「彼を殺害しなかっただけ寛容だ」称賛するほどである。
いずれにせよ民主党が下院を制したとはいえ、オルタナ右翼の影響力は共和党と議会には残る。こうした観点からウィリアム・クリストル氏はトランプ氏が中間選挙後にはさらに過激で分断的になり、政権再編によってより忠誠度の高い閣僚を登用するようになるとの警告を繰り返している。クリストル氏はジョナサン・ラスト氏が『ウィークリー・スタンダード』誌に11月9日付けで寄稿した”Trump is Waging War on the GOP. He’s Winning”という論文に言及し、「トランプ共和党勢は毛沢東思想さながらに自分達の党の支配が優先で、中国やロシアを相手にした戦略的競合などは二の次だ」と論評している。彼らは上院での過半数こそ維持したものの下院では敗れている。これでは立法能力の向上にはつながらない。しかしラスト氏によれば、トランプ共和党政治家はリベラル派ではなく従来の共和党政治家に戦いを挑んでいるということだ。トランプ氏の言動を顧みれば、こうした分析はあながち的外れとは言えない。トランプ氏は自らのスタッフには彼自身への個人的忠誠を要求している。また、中間選挙は自分達の勝利だとも言っている。これが党内抗争についてなら、意味が通じる。こうした見方に立てば、トランプ共和党政治家は反トランプ共和党候補が民主党候補に敗れても気にも留めないということになる。
ラスト氏は今選挙の結果について、共和党が過激化した一方で民主党は中道志向となったとの評価を下している。極右ポピュリスト達はプーチン政権下のロシアと深くつながっている。彼らは人権と法の支配を軽視している。こうした観点から、注目すべきはロシア捜査、そして民主党議員と「正気」の共和党議員がどのようにミュラー氏をトランプ氏の権力濫用から守り抜くかである。実際に、トランプ共和党勢は権力の掌握への執念が凄まじいので、捜査妨害ばかりかプーチン大統領さながらの国民への情報攪乱のためにはあらゆる手段を講じてきかねない。ポピュリスト過激派に見られる反主知主義がこうした傾向に拍車を駆けかねない。それが議会の政策的プロフェッショナリズムを低下させかねない。民主党が下院を制したとあっては、もはやオバマ・ケアは最重要問題ではなくなった。ロシア捜査こそが非常に重要になってくるので、反トランプ陣営はあらゆる手段を尽くして適正な捜査が行なわれるよう取り計らわねばならない。(おわり)
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