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2018-11-26 00:00
「第2次太平洋戦争」の号砲
鍋嶋 敬三
評論家
米国と中国の貿易摩擦に発した対立は安全保障の分野にまで広がり、世界秩序の主導権を巡る覇権争いを燃え上がらせた。首脳会談で一時的な「休戦」はあっても、長期に渡る「米中冷戦」の趨勢は変わらないだろう。舞台は2018年11月中旬の東南アジアと南太平洋地域での東南アジア諸国連合(ASEAN)、東アジア・サミット(EAS)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)などの首脳会議である。主役は米国のM.ペンス副大統領と中国の習近平国家主席だ。制裁関税で摩擦が激化した両国は南シナ海での中国の人工島の造成と軍事拠点化で対立を深めた。APECで米国は中国による不公正な貿易慣行を非難、中国は保護主義・米国一国主義への反対を声高に叫んだ。1993年の第1回以来初めてAPECは共同声明をまとめることが出来なかった。中国の「一帯一路」推進の中で弱小国を陥れる「債務の罠」が指摘されるが、ペンス氏が「借金の海で溺れさせない」と警告すれば、習氏は「罠などない。腕っ節の強い人の一言でルールは決まらない」と言い返す。
米国内の危機感が強まったのは、中国の対外進出が南シナ海を越えて太平洋にまで及んできたからだ。習氏はAPEC開催地のパプア・ニューギニアで南太平洋の島嶼国8カ国の首脳を集め、「一帯一路」への参加を取り付けた。台湾と外交関係を持つパラオなど6カ国は呼ばれず、中国が整備を支援したバヌアツの商港が軍港として供与される計画の報道もある。地域の島嶼国には日本政府も積極的な支援をしてきた。マリアナ、パラオ、マーシャル諸島などの旧ドイツ領を第1次世界大戦後に戦勝国だった日本が受け継ぎ、信託委任統治領としたものだ。太平洋戦争ではサイパン、ペリリュー、ニューギニアなどが日米の激戦地になり、未曾有の犠牲者を出した。米国のアジア太平洋戦略上、極めて重要な地域であることは70年以上経った今でも変わりはない。
中国の対米軍事戦略上、欠かせないのが二つの「列島線」である。「第1列島線」は九州南端を起点に尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海を囲い込むように沖縄-台湾-フィリピン-ボルネオ島を結ぶ。台湾侵攻の際、米軍を寄せ付けない「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)能力の強化を図ってきた。「第2列島線」は伊豆諸島-小笠原諸島-マリアナ諸島(グアム、サイパン)-ニューギニアを結ぶ。圏内で海上、航空の優勢を確保して、インド太平洋地域の米戦略基地であるグアムを無力化する狙いだ。西太平洋で米軍の制約を受けないで軍事行動が出来る範囲を広げ、習氏の「米国と太平洋を二分する」戦略上、大きな意味がある。中国による南太平洋諸島への進出で「第2次太平洋戦争」の号砲が鳴った。
米国内の危機感が対中強硬派だけでなく超党派的に一気に広まった。米議会の諮問機関である超党派の「米中経済安全保障調査委員会」が11月14日、2018年版報告書を議会に提出した。中国を「世界的パワーに転換させる野望を進める」ため、「習主席は世界秩序の構造的変革を追求している」として、このような試みが「米国と同盟国の国家安全保障と経済的利益を危険にさらす」と強く警告した。第2列島線内で中国は陸海空、情報の領域で米国の作戦に対抗する能力があると評価。2035年までにインド太平洋全域で米軍と争う能力を持つと警鐘を鳴らしている。特に空軍力では既に米軍が制空権を確保できるとは想定されないと見るなど、危機意識が強い。数十年間にわたる米国の対中国政策が「関与」によって「開かれた責任ある中国」に結びつくとの希望に基づいていたが、「全く無駄に終わった」と失望感が露わだ。国際秩序を破壊する中国の行動に対して議会、行政府、経済界が超党派で対応する措置を取っており、「ワシントンは今や声を一つにしている」とまで言い切った。日本の政府、国会も対米、対中政策や新防衛計画大綱の策定、審議に当たっては、このような米国の政策転換の動きを十分考慮に入れておく必要があろう。
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