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2018-12-10 00:00
(連載1)対中関与政策の終焉
笹島 雅彦
跡見学園女子大学教授
トランプ米大統領と習近平・中国国家主席による米中首脳会談が12月1日、ブエノスアイレスで行われた。注目された結果は、問題を先送りする「一時休戦」といえるもので、来年1月からの対中制裁関税引き上げを凍結し、当面90日間の対立激化を回避した。しかし、今回の米中対立は、視野の狭い貿易不均衡を巡る取引にとどまるものではなく、政治・安全保障を含めたあらゆる分野の全面的対立に向かっており、長期化する見通しであることに変わりはない。なぜならば、今回の米中対立は、トランプ大統領が対中貿易赤字をことさら問題視し、度重なる制裁関税を振りかざしながら仕掛けた「貿易戦争」という表面的な現象だけにとらわれると見誤るからだ。トランプ大統領自身が米中対立の深刻さを正確に認識しているかどうかは、9月の国連総会演説や今回の米中首脳会談のやり取りを見る限り、はなはだ疑問ではある。トランプ大統領自身は、中国トップとの短期間の取引外交で目に見える譲歩を引き出し、2020年の大統領選挙に向けた成果として支持基盤の有権者に成果を誇る目論見かもしれない。
だが、トランプ政権のスタッフ全体を覆う厳しい対中認識は、昨年12月の国家安全保障戦略(NSS)、今年1月の国家防衛戦略(NDS)において中国、ロシア両国を「戦略的競争相手」と位置付けて以来、マイク・ペンス副大統領のハドソン研究所演説(10月4日)に至るまで一貫した方向性を志向している。この方向性は、冷戦終結後の米国の対中政策が、いわゆる「関与政策」から「戦略的競争」へと大転換したことを示している。そこには、冷戦終結後、米国が忍耐に忍耐を重ね、中国の政治的自由化と民主化へ期待してきたにもかかわらず、一向に進まなかったという失望感が背景にある。鄧小平の「改革・開放」政策から40年を迎えた今年、中国の習近平体制は、習氏の強権的な「一強体制」を確立し、南シナ海では国際法を無視して国家権益の拡大を声高に主張する異様な大国に膨張した。国内では、腐敗一掃キャンペーンを張り、党内引き締めと対抗勢力追い落としを図っているが、一党支配の下では、党指導部から末端党組織に至るまで、権力の腐敗から逃れ得るはずもない。
その失望感と危機感は、トランプ政権を支える安全保障チームだけでなく、民主党・共和党を問わず超党派の連邦議会メンバー、経済界、主要なシンクタンクに及んでいる。政権の経済政策チームでは、米国家経済会議(NEC)のクドロー委員長、ムニューシン財務長官らが「中道・穏健派」、ナバロ大統領補佐官とライトハイザー通商代表部代表らが「強硬派」と分類されているが、これまでの対中制裁関税発動を巡る言動からの分け方であり、より包括的な対中政策は国家安全保障戦略(NSS)にこそ、現れている。
特に注目すべきは、オバマ政権時代に外交・安全保障スタッフを務めたカート・キャンベル、エリー・ラトナー両氏がフォーリン・アフェアーズ誌(今年3・4月号)に寄せた論文“The China Reckoning”である。この中で両氏は、中国が人権問題などで一党独裁体制を守るために外国の介入を拒む姿勢や、南シナ海における国際法を無視する態度を問題視し、「アメリカの期待と中国の現実のギャップが広がっている」と指摘している。そのうえで、「トランプ政権の最初の国家安全保障戦略は、正しい方向へ歩み出した」と高く評価しているのだ。これは、今後、民主党政権が誕生しても、中国に対する厳しい視線は、党派を超えて変わりないことを示唆している。(つづく)
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